第49話:侵攻

2年目の春


 大魔境神と東魔境神、300柱に増えた下級神が獣人族を助けてくれた。

 20000人住める村には、多くの種族の獣人族が集まった。

 草食系、特に果物を主食にする獣人には天国だった。


「心配しなくても良い、イチロウ様が鶏と山羊を下賜してくだされた」


 肉食の獣人族が困っていると聞いたから、大量の家畜を分けてあげた。

 大魔境で飼っている家畜を分けてあげたのではない。

 人間の国で買った家畜を分けてあげただけだ。


「神様なのですから、俺に様付けは止めてください」


 そうもんくを言ったのだが……


「来訪神様に選ばれて、あのようなギフトを授かったイチロウ様を呼び捨てにするなんて、おそれ多くてできません。

 大魔境神と東魔境神にも厳しく言われていますから」


「おい、おい、大魔境神と東魔境神と言うのは俺たちが勝手に名付けた呼び名だ。

 神の世界の名前があるんだろう、ちゃんとした名前で呼んでやれ」


 俺らと同じように呼ぶ下級神に言ってみたのだが……


「いえ、神に決まった名前はありません。

 宿す力や役目のよって、紙の神とか陶器の神と呼ばれるのです。

 ちなみに、私はヤグルマソウの神でして、何の力もありません」


 この世界も日本的な考え方で、たくさんの神がいるのだな。

 西洋的な考えだと、たった一柱の神に手下の天使と邪神がいるだけ。

 あんな考え方だから、身勝手な性格になるのだろう。


「大変です、人間が獣人族の村をおそいました!」


 何の力もないと言っていたヤグルマソウの神が知らせに来てくれた。


「助けに行く、シェイマシーナ、転移させてくれ!」


「ダメです、村長を危険な場所には行かせられません」


「そうだ、村長を危険な場所には行かせられん。

 危険な事は儂らに任せておけ、エンシェントドワーフの力を見せつけてやる」


「エンシェントドワーフなら人間など簡単に負かすだろう。

 だが、もう誰かが大怪我をしているかもしれない。

 俺の力なら、とても良く効く薬草を一瞬に作り出せる」


「そんな心配はしなくてだいじょうぶですよ。

 人間の醜い行いは、同じ人間の私が責任を取ります。

 聖女のギフトを授かった私が、ケガをした獣人族を治します」


 聖女ジャンヌが珍しく強く言う。

 最近は優しい笑みを浮かべながら強い酒を飲むだけだったが、同じ人間がやっている事に思う所があったのだな。


「私もついて行くぜ。

 金猿獣人族を最初に助けようとしてくれた聖女ジャンヌを、1人で危険な場所には行かせられない」


 初めて会った時よりも大人びて来たサ・リが真っ先に言った。


「「「「「そうだ、俺たちも行くぞ!」」」」」


「同じ獣人族を助けに行くんだ!」


 それに応じるように、大人の金猿獣人族が助けに行くという。

 争うのを好まない心優しい金猿獣人族が戦うと言うが、獣人族を奴隷にして死ぬまで働かせる、性根の悪い人間に勝てるとは思えない。


「「「「「ウォオオオオン」」」」」


 俺が止めようとすると、キンモウコウたちが手助けすると言った。

 鳴き声が分かる訳ではないが、心の叫びが分かった。

 キンモウコウたちなら人間などひと捻りだろう。


「気持ちはうれしいが、キンモウコウは大魔境から出られないのだろう?

 少しの間ならだいじょうぶかもしれないが、無理はいけないぞ」


「村長、そんなに心配しなくてもだいじょうぶです。

 永住して子供を作るのなら、魔力の多い魔境しかムリです。

 ですが1年や2年魔力の少ない所で暮らす程度なら、ぜんぜん平気です。

 今回は1日2日戦うだけです。

 キンモウコウがいると分かったら、弱い者いじめしかできない卑怯な人間は、2度と襲ってこなくなります」


 シェイマシーナが教えてくれた。


「キンモウコウがいると、人間は怖くて襲ってこない?

 だったらエンシェントドワーフや妖精がいたらどうなるんだ?」


「儂らを見たとたんに武器を放り出して逃げ出すだろう」


「襲ってきている人間によります。

 私たち妖精の事を知っている人間は、直ぐに逃げだすと思います。

 知らない人間は、捕らえて金にしようとするでしょう」


「妖精族は行かなくていい、俺を転移させてくれるだけで良い」


「ダメです、村長は行かせません。

 私たちを心配してくださるのはうれしいですが、ぜんぜんだいじょうぶです。

 その気になれば、人間など皆殺しにできます」


「いや、皆殺しにしなくていいから。

 強めの罰を与えて、2度と来るに気ならないようにするだけで良いから。

 何にでも神がいる世界なら、人間の神もいるよな?

 これまで獣人族が人間に差別され奴隷にされていたのだろう?

 それは人間の神の方が獣人族の神よりも強いからだろう?

 お前たちが目立ち過ぎたら、人間の神が出てくる。

 そんな事になったら、お前たちが殺されるかもしれない。

 人の神が出てこない程度にしておけ」


「人の神か……別に怖い相手ではないが、陰湿でずる賢いからな……

 強い儂らを狙わず、弱いドワーフを狙うだろうな」


「そうですね、弱い妖精が1人の時を狙ってくるかもしれません」


「私たちは元々人間の神にやられ続けてきたから、今更恐れない。

 弱い者を狙うのも、人質を取るのもこれまでと一緒だ。

 今度こそ負けない、同じ獣人族を助ける!」


「「「「「ウォオオオオン」」」」」


「シェイマシーナ、俺を転移させてくれ。

 同じ人間の俺がやる事なら、他種族を巻き込まない。

 それに俺には来訪神様たちからいただいたギフトがある。

 何も人間に傷つけられる事など絶対にない!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る