第48話:下級神だけど守護神

2年目の春


 美味しい組み合わせのアッサンブラージュワインを見つけたかった。

 だからとんでもない量の醸造酒を造った。

 東魔境の保管庫がいっぱいになったので、盆地避難村の保管庫も使った。


 盆地避難村の保管庫も足らなくなったので、ギフトで増やした。

 保管庫だけでなく、住宅用の部屋も醸造所も蒸留所も造った。

 先に保管してあったハイトレントの酒は全部売れた。


「イチロウ殿、差別されていた獣人を助けた、ここに連れて来て良いか?」


 エンシェントトレントワインをお礼をする条件で、獣人を助けるように交渉した、下級神が言ってきた。


 いや、ここは金猿獣人族の避難村にするために造ったのだが……

 俺から助けてやってくれと言っておいて、いまさら嫌だとは言い難い。

 神なら神通力で安全な村くらい造ってやれよ、とは言えなかった。


「分かりました、ここは解放しますから、連れて来てください」


 1柱の下級神が言ってきた事に対応すると、直ぐまた次の下級神が言ってくる。


「差別されていた獣人を助けて村を作ったが、食べる物がない。

 普通の木で良いから果樹を根付かせてくれないか?」


 村は造れても、食糧は作り出せないのですね。

 下級神の神通力が限られているのは分かっています。


「そうですか、直ぐに行きますから案内してください」


「ダメだ、先に吾が確認する」

「そうだぞ、村長が簡単に出て行くもんじゃない、立場を考えろ」

「村長は大魔境神よりも重要な存在なのですよ!」


「いや、大魔境を預かる中級神が、人間の使い走りのような事をしたらダメだろ。

 ヴァルタル、小さな村の長はそんなに偉くないぞ。

 シェイマシーナ、当の大魔境神様を前にしてそんな事言ってはいけない」


 俺は思いっきりもんくを言ったが、聞いてもらえなかった。

 何柱もの下級神、エンシェントドワーフ、妖精たちが安全を確認するまで、下級神が造ったという獣人たちの村に行けなかった。


 みんなが確認した後で、ようやく行く事ができたが、良くない場所だった。

 雨が降らなくて、岩がゴロゴロしていて、作物が実りそうになかった。

 下級神だから仕方ないが、こんな場所しか獣人族に与えられない。


 ボロボロの服を着た100人くらいの獣人たちが不安そうにしている。

 ほんの少しだけ期待の気持ちが目に宿っているのは、下級神に助けられたからか?

 こんな場所でも、神様なら豊かにしてくれると思っているのか?


「大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!」


「うぁあアアアアア!」

「すごい、すごい、すごい!」

「いわがなくなった!」

「土だよ、土になったよ」

「ほっていい、あなをほっていい?!」


 大人たちは目の前で起こった事が信じられずに固まっている。

 まだ幼い子供たちだけがおどろいて声をあげている。

 穴を掘りたいと言っている獣人族はモグラ系かな?


「種よ、木の上で暮らせるくらい大きく育って実をつけろ!

 大地よ、俺を助けてくれる巨樹が必要とする豊かな地となれ!」


 俺は広大な農地に果樹の種を蒔いてギフトを使った。

 各種のリンゴ、ブドウ、ナシ、オレンジ、オリーブ、ヤシ、キウイが実る。

 クリ、クルミ、アーモンド、マンゴー、レイシ、イチジクなども実る。


「うぁあアアアアア!」

「すごい、すごい、すごい!」

「やったぁ~、実った、実ったよおかあさん」

「プラムだ、モモだ、カキもあるよ!」

「たべていい、ねえ、たべていい?!」


 木を成長させて実らせても大人たちは何も言わない。

 あまりに信じられない現実に、固まっている。


 その気持ちは分かる、やっている俺自身が未だに信じられないでいる。

 これは全部、賽銭泥棒に刺された俺が見ている夢なのかもしれない。


「おお、神よ、われらに奇跡を下された事を心から感謝します」

「神様、人間から助け出して安住の地を与えてくださった事を感謝します」

「飢えた我々に糧を下された事を心から感謝いたします」


 拝むんじゃない、俺は神様じゃない、ギフトを与えられただけの人間だ。

 そんな事よりも、お腹をすかせた子供たちに食べさせてやれ。

 こら、下級神、お前まで一緒になって俺を拝むな!


「神さま、この村の守護神はあなたでしょう!

 まずはお腹一杯食べさせてあげた方が良いのではありませんか?

 その後で実った物を収穫させた方が良いのではありませんか!?」


「そうですね、そうでしたね、さあ、イチロウ様のお恵みです。

 心から感謝していただきなさい」


 おい、こら、そんな言い方をするんじゃない。

 そんな言い方をしたら、俺の方が下級神よりもえらいみたいじゃないか!


 下級神の1柱が造った獣人族の村に、200本ほどの果樹を成長させた。

 普通に育って欲しかったのに、ハイトレントに進化していた。

 高さも枝幅も、盆地避難村に住むハイトレントと同じ大きさだった。


 1人のハイトレントだけで、100人の獣人を1年間食べさせられる。

 20000人を食べさせられる所に100人だけだともったいない。

 だから、1度は盆地避難村に住まわせた獣人族を移住させた。


 盆地避難村は、金猿獣人族のために造った避難村だというのが1番の理由だ。

 だが、それ以上に心配だったのは、火竜の巣だった事だ。

 何かあって火竜が戻ってきたら、食べられてしまうかもしれない。


 そんな危険な所に力のない獣人族を住ませられない。

 それに、エンシェントドラゴンか相手だと、下級神も勝てないと聞いた。


 獣人族を守るように頼んだ下級神が死んでしまったら?

 責任を感じてしまうから、安全な所で獣人族を守ってもらう事にした。

 人間が相手なら勝てるよな、ちゃんと守れるよな?

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