第47話:裏交渉

2年目の春


 毎日200以上のアッサンブラージュワインを大量に造る。

 酔い潰れるまで試飲して、翌日起きられた者から酒を造る。

 俺が遅く起きると、原料を詰めた酒カメが山となっている。


 前日に収穫した果物は全部発酵させたと思っていたが、2番成りがあった。

 エンシェントトレントが無理をしていなければいいのだが……


 だからといって、眠いのを無理して起きる気はない。

 石長姫様のギフトで、不老長寿の健康な身体をいただいている。

 二日酔いにはならないが、眠いのはどうしようもない。


 健康に長生きしたいから、しっかり眠る。

 不老長寿の身体だからと言って不摂生はしない。

 酒のためなら神通力をおしまない神には付き合っていられない。


 いつの間にか、酒造りを手伝う神さまが増えていた。

 中級神は大魔境神と東魔境神の2柱のままだ。

 だけど下級神が100柱ほど増えている。


「いやぁ~、魔境神様に飲ませていただいた酒があまりに美味しくて」

「手伝ったら、運んだ材料の5パーセントを酒にしてもらえるのでしょう?」

「あんな美味しい酒がもらえるなら、いくらでも手伝いますよ」

「自分の分の酒カメは自分たちで造る、陶器神、出番だぞ」

「お前の飲む分は分けてやる、だから倒れるまで酒カメを造れ」


 下級神は神通力を使える範囲が決まっているようだった。

 東魔境の中だけだし、紙神は紙しか作れないし、陶器神なら陶器しか造れない。

 それぞれが分業してアッサンブラージュワインを造っている。


「村長、モモ7割とブドウ3割のワインを地下醸造庫で造ってくれ」


「そんなに造ってだいじょうぶか?」


「村人の総意だ、村で常飲する酒に選ばれた」


「モモの品種はなんだ、ブドウの品種も指定しないと違う味になるぞ」


「まってくれ、そこまでは気にしていなかった、あの木とこの木だ」


「分かった、モモが清水白桃でブドウが甲州だな」


「え~と、あの木とこの木だ」


「わかった、だいじょうぶだ、これからも木だけ覚えてくれていれば良い」


「そうさせてくれ、モモやブドウに違いがあるとは思わなかった」


 新たに酒造りに加わった妖精が焦った顔をしていた。

 新人には、同じ果物に品種の違いがあるのは分からないよな。

 村人になるようだから、ゆっくりと覚えてくれればいい。


「村長、あの木のナシが3割、あの木のモモが5割、この木のブドウが2割だ。

 それを地下の醸造所で発酵させてくれ」


「3種アッサンブラージュワインを村用に決めるのは早くないか?

 まだ2種のアッサンブラージュワインも試飲しきれていないだろう?」


「それはそうなのだが、もの凄く美味しかったのだ。

 これからもっと美味しいアッサンブラージュワインが造れるかもしれない。

 だからといって、この組み合わせがまずくなるわけではない。

 もっと美味しい組み合わせができたら、こいつは贈り物にする。

 どれほど金を積まれても人間に売る気にはならないが、エルダードワーフには売ってやってもいい」


 ヴァルタルがそんな事を言いだした。

 そうか、これまではみんなが反対するから酒を売れなかったが、みんなが売っても良いと思う酒なら人間にも売れるのか?


「ヴァルタル、ハイトレントの果実から造った酒は余り美味しくないんだよな?」


「村長、まずいと言っている訳ではないぞ、それは分かってくれ!

 酒造りの天才と言われていた、エンシェントドワーフの酒よりも美味い。

 天と地ほどの差を開けて、村長が造ったハイトレントの酒の方が美味い。

 だが、それでも、エンシェントトレントの果実で村長が造った酒の方が美味い」


「いや、もんくがある訳ではないんだ。

 さっきエルダードワーフになら酒を売っても良いと言っていただろう?

 だったら非常時以外には誰も飲もうと思わない、ハイトレントの酒を売らないか?

 人間に売れば大金になるのだろう?

 その金で、困っている獣人族を助けてやりたいんだ」


「……人間に差別されている獣人族を助けるのは構わない。

 人間世界にいるドワーフ族は獣人族が好きでも嫌いでもない。

 差別する事はないが、特に助けようともしていない。

 儂らエンシェントドワーフも同じだ、何とも思っていなかった。

 だが、村長が助けたいと言うなら手伝おう」


「そうか、だったらハイトレントの酒を人間に売るぞ」


「待ってくれ、ちょっとだけ待ってくれ。

 確かにハイトレントの酒は、エンシェントトレントの酒がある限り飲む気にならないが、人間なんかに売るには美味し過ぎる。

 エルダードワーフかハイドワーフに買わないか聞いてみる。

 できるだけ高く売るから、エルダードワーフやハイドワーフ買うと言ったら人間には売らないでくれ」


「それは構わない、獣人族を助ける金が手に入るならそれでいい」


「待ってください、そう言う事なら吾らにも手伝わせてください。

 他の地域にいる神たちにハイトレントの酒を買わないか聞いてみます。

 その代わり、エンシェントトレントの酒を謝礼にいただきたい」


 新たに手伝ってくれている下級神たちが会話にくわわってきた。

 盗み聞きは恥ずかしい行為なんだぞ!


「聞いていたなら分かっていますね、代価は獣人族を人間から助けるお金です。

 あなた方は下級とはいえ神なのですから、人間が相手なら神罰を下せるでしょう?

 ハイトレントの酒、代金はお金でなくても好いのですよ。

 獣人族を助ける、加護を与える、それでハイトレントの酒を渡しましょう」

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