第46話:ブレンド酒
2年目の春
村人たちに加えて大魔境神と東魔境神がワイン造りに加わった。
エンシェントドワーフたちと東魔境の妖精たちも加わった。
その気になれば東魔境全てがエンシェントトレントの森になる。
「人を襲うからと言って、魔獣を滅ぼす気はない。
魔獣だって神が創り出された生き物なのだろう?
ここには、何かあった時に金猿獣人族が逃げ込める広さがあればいい。
エンシェントトレントが100人もいたら十分だろう?」
俺がそう言ったので、大魔境神と東魔境神も分かってくれた。
何も言わなかったら、東魔境全体が避難村になっていた。
酒好きの暴走は本当に恐ろしい。
本来なら魔境を守らなければいけない中級神が、進んで魔境を全部エンシェントトレントにしようと言っていたのだ。
そんな事をしなくても、神が飲むくらいの酒は毎日造れる。
2柱の神が土から酒カメを造ってくれるので、醸造も保管も簡単になった。
まあ、神に頼らなくても、東魔境の地下街にある醸造用の巨大酒カメと保管庫は、前世の大企業並みの大きさになっている。
醸造用のカメ1つで10000リットルもの酒が造れる。
ギフトの能力と特性が理解できたので、一気に大量の果実を発酵させられる。
だから、神や妖精の取り分となる酒を造る果実以外、村の人々の共用酒にする果実は、直接地下の醸造所に転移させてもらった。
人族から買い続けている酒カメや、神に造ってもらっている酒カメは、それぞれの取り分になる個人的な酒だ。
毎日村人にふるまわれる酒以外に、個人で楽しむための酒。
だからこそ、自分の好みにこだわった酒が造られる。
持ち運べるくらいの酒カメでないと困るのだ。
ギフトを使って醸造させるのは俺だが、どの果実や穀物を選ぶのかは村人個人。
不要だと思った部分をどれくらい捨てるのかも村人個人が決める。
中にはモモとブドウを合わせて醸造してくれと言う者もいる。
「わかった、心配するな、ちゃんと望みはかなえてやる。
だが、最初から大量に造るのは止めておけ。
最初は1番小さな酒カメに原料を入れて発酵させればいい。
1種の組み合わせではなく、100くらい試してみろ。
そのなかで1番美味しいと思った組み合わせをたくさん造ればいい」
「そうか、そうだな、その方が1番好きな酒を見つけられる」
「だったらみんなで試せばいいのではないか?」
「そうだ、みんなで試したら何度も同じ組み合わせをする事もない」
「村人全員で試飲するなら、小さい酒カメでちまちま造る事もない」
「どうせなら1番大きい酒カメで試飲用の酒を造ろう!」
「「「「「おう!」」」」」
村人の言葉に2柱の神とエンシェントドワーフも同意した。
誰もが2つ以上の果物を組み合わせたワインが気になったのだ。
実は俺も思いっきり気になっていた。
「大気よ、俺が望む最高の発酵で美味しい酒を造り出してくれ。
違う果物を組み合わせた原料で、最高の酒を醸造してくれ!」
前世で俺が飲んでいたコーヒーは、ブレンドが当たり前だった。
違う豆を組み合わせて美味しいコーヒーを造るのが当たり前だった。
ブレンドはコーヒーだけでなく、清酒でも当たり前に行われていた。
灘の酒や淀の酒は、複数の蔵元の酒をブレンドして作っていた時代がある。
それはワインの世界でも行われていて、有名で高価なワインに似せた味のブレンドワインを、腕の良い職人が安いワインを組み合わせて造っていた。
それだけでは悪いイメージだが、これから俺たちがやろうとしているのに近い、違う品種のブドウを数種類原料にして造るワインもブレンドワインと言う。
複数のブドウを組み合わせて造ったワインで有名なのがボルドーのワインだ。
1種のブドウから造ったワインで有名なのがブルゴーニュのワインだ。
これまで俺たちがこだわって造ってきたのは、ブルゴーニュのワインと同じだ。
単に1種ではなく、1本の巨樹、1本のエンシェントトレントから収穫した果実だけを使って酒を造ってきた。
だが、俺たちがこれから造ろうしているのは、全く違う原料を組み合わせた酒だ。
ブドウ、リンゴ、ナシ、カキ、ビワなどを組み合わせた酒だ。
俺が知っている酒でわずかに近いのは、韓国焼酎だ。
米、麦、サツマイモ、トウモロコシ、タピオカなどの複数の原料から造っている。
しかしこれは蒸留酒で醸造酒ではない。
複数の原料から造る醸造酒、楽しみでしかたがない。
前世ではアルコールを受け付けない身体だったから、酒を楽しめなかった。
この世界で思いっきり酒を楽しむのだ!
どんな味になるのだろうか?
混成酒、リキュールのような酒になるのだろうか?
それとも、カクテルのような酒になるのだろうか?
リキュールもカクテル、若い頃に酒が飲めるように練習した。
甘い物がそれほど好きではなかったので、味も覚えていない。
覚えているのは吐いて苦しんだ事だけだ……
「うまい、こんな美味い酒は飲んだ事がない!」
「本当だ、うまい、もの凄く美味いぞ、もうこの組み合わせで良いんじゃないか?」
「もの凄くうまいのは認めるが、まだこれに決めるのは早い、他も試そう」
200以上の組み合わせでブレンドワインを造った。
ブレンドだと普及品、安物のイメージが強いか?
アッサンブラージュワインと言った方がイメージが良いかな?
「うっわ、こっちのワインもとんでもなく美味いぞ!」
「本当だ、モモとブドウの風味と酸味が上手く合わさっている」
「うん、美味い、これに決めて良いんじゃないか?」
「まて、待て、まて、2つともこんなに美味いんだ、他も美味いんじゃないのか?」
「そう、だな、村長が造ったワインだぞ、まずい訳がない」
「全部試してみないと答えは出ないぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
「「「「「今日は大宴会だ!」」」」」
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