第16話 終幕
「この一撃に全てを賭ける!喰らえぇ!秘剣玄武の太刀ィィィ!!」
袴姿の剣士が刀を振り抜くと、少し遅れて閃光と轟音が巻き起こる。ごおおおおん!
「こ、これは避けられん、ぐわああああ!」
刀の先にいた甲冑姿の男がへなへなと倒れ伏す。剣士が天井へ刀をかざし、客席へ見栄を切る。
「悪の栄えたためし無し!!」
着物姿の女子生徒が駆け寄る。
「ありがとうございます!雪之丞様!おかげで山坂藩は救われました。全て雪之丞様のおかげです!」
剣士役の女子生徒が着物姿の女子生徒の肩を抱いて、客席後方へ凛々しい笑顔を向ける。
「よかったなあ、よかったなあ。」
そこでブラスバンドが古い映画のテーマソングを演奏し始める。緞帳がゆっくりと降りてくる。体育館が拍手に包まれる。めでたしめでたし、である。
生徒会は、他流試合の観客たちを演劇部やブラスバンド部などのショーへ誘導するため、両部に「山坂藩安政御前試合」をテーマにしたコラボレーション企画を依頼した。正味五分間程度、全年齢対応のヒーローショーのような寸劇である。限られた時間で、メインの企画と並行して準備をしたその結果がこれである。
「うひゃひゃひゃ、おい、見たか、恵介、あれが玄武だってよ。お前の玄武も光が出るくらいまで稽古しなきゃな。」
「まずは音からですかねえ。」
体育館の二階席から、恵介と琴音は遠巻きに舞台を見ていた。演劇部の考えた玄武の太刀は舞台から遠い二階席でも音と光の演出が楽しめるという意味では工夫されたものだといえる。
緞帳の裏では、演劇部がメインの演目の準備をしている。暗幕が張られ、照明が落とされた体育館は薄暗い。すぐ隣は見えるけれど、周囲の他人は気にならないという中で、観客たちは他流試合やコラボレーション企画の感想を話したり、思い思いの会話を楽しんでいる。
「なあ、恵介、他流試合、勝ってよかったな。」
「そうですね。剣術部、いや、今は背月一刀流部ってことになるんでしたっけ。廃部は避けられましたしね。」
「渡辺の野郎が竹刀を受け切ったときには驚いたけどな。」
「流石だと思いましたよ。顎の方が通用して助かりましたね。」
「それで………、恵介はあれでよかったのか?」
「と、いうと?」
「美咲のこと。」
「そう、ですね。………。正直なところ、ほっとしました。美咲先輩、渡辺先輩との間で何かあったんじゃないか、って心配してたんです。でも、そうじゃなかった。二人とも仲良さそうで、むしろ、この他流試合を受けたことで心配かけちゃったみたいで。はは、ダメですね、俺。」
恵介は苦笑いを浮かべた。
「そんなことない。恵介はダメじゃないよ。」
琴音は珍しく真顔で慰めた。それから、白い歯を見せて笑いながら言う。
「お前が告白してたら、案外、美咲だってお前を選んだかもしれないぜ?」
「いや、そういうんじゃないですから。っていうか、そういうんじゃなかった、って今回の件で分かりました。渡辺先輩に怪我がないって分かって、ほっとした美咲先輩を見て、笑い合う二人を見て、負け惜しみでも何でもなく、俺も素直にほっとしてました。自分でもよく分かってなかった自分の気持ちが分かって、すっきりしました。」
「そ、そうか?そうか、そうか。よかった、よかったな。」
「琴音先輩、そんなに笑わないで下さいよ。俺だって、言ってて恥ずかしいんですから。」
体育館内にアナウンスが流れ、幕が上がる。
舞台には、さっきまでとは違い、もう剣を持つ者もいなければ甲冑姿の者もいない。
演劇部が用意した本編の演目。山坂高校の制服であるブレザー姿の男女が笑ったり泣いたりしながらどこかで聞いたことがあるような台詞を口にする。
恵介と琴音は笑顔でそれを眺めている。
外では六月だというのに雲一つない空が広がっていた。
秘剣玄武の太刀 ――山坂高校剣術部最後の戦い―― 大崎 灯 @urotsunahiko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます