第42話

 エピローグ



 この世界に来て一年と少し。

 聖は無事に元気な女児を産んだ。

「アリスティーナ様!」

 聖が帰ってくると、乳母が慌てたようにそして感動しきったような声を上げていた。

「どうかしたの?」

「セイ様! オーウェン王太子殿下! お帰りなさいませ。割れた食器で指を切ってしまったのですが、アリスティーナ様が癒やしてくださったのです!」

「あらら、また?」

「アリスティーナの魔力は底なしだな」

 オーウェンは乳母の手からアリスティーナを受け取り、ふっくらとした頬に口づけた。アリスティーナは機嫌良さげにきゃっきゃと声を出す。そして、小さな手でオーウェンの頬に触れると、いとも簡単に癒やしの魔法をかける。

「今、魔法を使った?」

「あぁ、疲れを癒やしてくれた」

「アリスはあなたが大好きだもんね」

 王女であるアリスティーナは、とにかく破天荒な赤子だった。

 出産で出血した聖を産まれた瞬間に癒やし、侍女であるケリーが試しに魔石を握らせてみたところ、次々に聖魔法を込めても魔力がまったく切れなかったのだ。

 どうやら大量の魔力を保っているらしく、大量の魔石のおかげで聖が瘴気を祓いに行く必要もなくなり、ゆっくり休めたおかげで回復も早かった。

 今では親子揃ってせっせと魔石に聖魔力を込めている。

 聖が聖女を産んだこと、聖女の今後の地位がフィリップ国王より説明されると、貴族たちの反応は概ね肯定的だった。おそらく癒やしの力があると発表されたからだろう。

 その力で利を得ようとする貴族は多く、産まれてすぐにもかかわらずアリスティーナの下には大量の絵姿が届けられている。

「君が傷を癒やしてくれて、アリスティーナが疲れを癒やしてくれたら、何度でも戦いに行けそうだ」

 不思議なことに、お腹にいたアリスティーナが魔力をわけてくれたのか、出産後、聖にも癒やしの魔法が使えるようになったのだ。

「アリスも私も、戦うより一緒にいてくれた方が嬉しいのに」

「わかっているさ」

 オーウェンの唇が軽く重ねられる。

 聖は自分から彼に口づけ、続けてアリスティーナの額にも口づけた。聖の左手の薬指にはいつか彼からプレゼントされた指輪が今でも青く輝いている。



 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その日が来たら、愛するあなたに殺されたい 本郷アキ @hongoaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ