花言葉

圭琴子

花言葉

 紺色の繋ぎを着た男性が、閉店間近のフラワーショップに入ってきた。花とは縁のなさそうなゴツくて長身の男性は、それでもキョロキョロと店内を見て回る。冷やかしではないらしい。


「何かお探しですか?」


 私は笑顔で声をかけた。


「あの……」


 男性は言葉を濁す。心なしか、目元が淡く染まっていた。

 この商売をやっていたら、ピンとくる仕草だった。


「親しい方に、贈りものですか?」


「あ。はい。その……告白って、やっぱり赤い薔薇が嬉しいんですかね」


 読みは当たっていた。


「最近は、ピンクのカーネーションや赤い菊、チューリップなんかも告白に使われておりますよ」


「じゃ、じゃあ、うまいこと見繕ってください」


「ご予算は?」


「一万円で」


 おっと。これは予想外。男性はよっぽど想い人にお熱らしい。

 何だか応援したくなって、私は心を込めて花束を美しく作り上げた。

 中央に、薄紅色のハナミズキが揺れている。花言葉は『私の想いを受け取ってください』

 樹木だからあまり他の花屋では見ないけど、こんなときの為にこだわりで仕入れている枝だった。 


「はい。どうぞ。告白、上手くいくと良いですね」


 豪華な花束を受け取ると、男性はそれをそのまま私に差し出した。


「好きです。付き合ってください」


 男性は、真摯な表情で私を見詰める。


「えっ?」


「俺、向かいの通りで毎日工事してたんです。あなたの笑顔、いつも見てました」


 そう言えば、ずっと工事してた。今度は私が赤くなる番だった。


「え……えっと……」


「友だちから、お願いします」


「……はい……」


 こんな豪華な花束を貰うのは初めてだった。男性の情熱的な視線にほだされて、花束を受け取り小さく言った。


「十五分で……閉店準備します」


「良かった」


 私の言葉に男性は、花束よりも極上な満面の笑みを花開かせた。

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花言葉 圭琴子 @nijiiro365

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