5章:新生種サラ:人類と新世界との狭間で

 カロン基地での新たな一日が始まった。

 アレックスも例外ではなく、夜明けとともに起床し、朝食を摂りながら日課となったサラの訪問を待ちました。彼女は新生から厳しい検査と調査を乗り越え、アレックスと同じ空間で生活することを許可されたのです。

 彼女が部屋に入ると、アレックスは新しい音楽を再生し、サラはその音楽をじっと聞き入っていました。

「これは、地球の音楽だよ。僕のお気に入りのバンドだ」

 彼が教えると、彼女の顔は明るくなりました。 サラの存在は基地の空気をがらっと変えました。彼女の学びたいという欲求は限りなく、人間の文化、言語、知識、臆することなく吸収し続けました。

 彼女が質問し、アレックスと基地メンバーから教えられる度、サラは更に成長していった。いつしか彼女は彼らの一員として受け入れられ、新しい惑星と人類との間の交信を維持する役割を引き受けました。

「アレックス、この星の向こうに人類の家があるんだよね?」

 彼女が聞くと、アレックスは朗らかに応えました。

「うん、そうだよ。でも、ここも君にとって新しい家になるだろうさ」

 彼の答えに、彼女は静かにうなずきました。

 アレックスはしばらく彼女の様子を見つめていました。

 そして彼の心の中にある混乱と期待を吹き飛ばす一言を決意しました。

「サラ、いつかその地球に行ってみたいと思うかい?」

 彼女は驚いた顔で彼を見つめました。

 アレックスは手許の端末を操作してホログラムに地球を表示した。

「でも、私はここで生まれた。私は行っていいの?」

「それは君次第だ」

 彼は敢えてあいまいに答える。

「ただ、我々人間は各々が自分の道を探求する自由を持ってる。それは新しい場所へ旅立つ自由も含むんだ」

 彼女の目はホログラムを離れ、窓の向こうの星空に移った。

「私も、そんな自由を持っているのでしょうか?」

「サラ」

 アレックスは彼女の頬に手を伸ばし、優しく撫でた。

「君は新たな存在だ。だから君の自由は、君自身が決定するべきだ。少なくとも、我々は君が自身の意志で選ぶことを全力でサポートするよ」

 サラは言葉を紡ぐ代わりに、彼の手を優しく握りしめた。その一瞬の微笑みは、アレックスの心に深く刺さった。

 クルーたちサラの存在を喜んでおり、自分たちが新しい種族の出現を助けたことに感動を覚えていました。彼らは彼女の成長と進化に驚き、大いなる喜びを感じていました。

 しかし、彼らの大胆さはある種の恐怖でもありました。新たに誕生したこれらの生命体が将来、地球に帰還した際の事態は予測がつかず、結果として何が起こるのか、人類にどのような影響を及ぼすのかは分からなかったからです。

 これらの未知の可能性に対する恐怖と期待は、カロン基地のクルーの心を通奏低音のようにと揺さぶり続けました。それは、新たな生命の可能性に対しての複雑な感情であり、それが地球の生態系を変え、また地球を生き生きとした人々で埋め尽くす新たな希望かもしれないという考えに向き合う矛盾した感情でもありました。

 しかし、彼らはこの新たな挑戦を受け入れ、堂々と向かい続けることを決定しました。「彼女がそれを望むのなら、私たちは彼女に地球へ行くチャンスを与えるべきだ」

 アレックスは基地メンバーに向かってそう宣言しました。

 彼らの選択は新たな章を開き、未知なる未来への道を切り開くことになるでしょう。それはまだ見ぬ新しい世界の始まりであり、彼らが探検していく新たな時代の到来を示していたのです。


(了)


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【SF短編小説】「未知への憧憬:地球から遠く離れたカロンにて」 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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