『ヴィラン』は、「悪意」が異能として現れる近未来の世界を舞台に、主人公・忍夜景(しのや けい)の心の旅を描いた繊細で力強いヒューマンドラマです。幼い頃から深い傷を抱えてきた景が、他者との小さなつながりの中で少しずつ変わっていく姿が、とても丁寧に描かれています。やがて彼の内に目覚める異能“ヴィラン”は、他人の悪意を吸収して力に変えるという、痛ましくも不思議な力。その異能を通して、景は人との距離を少しずつ縮めていきます。
「悪」が「つながり」を生むという逆説的なテーマはとても新鮮で、人間の心の光と闇に深く迫ります。まるで心の海に潜るダイバーのように、景の旅に寄り添いながら読むうちに、自分の中の感情とも静かに向き合える——そんな作品です。
重さの中に優しさがあり、痛みの中に希望がある。心に残る物語を探している方に、ぜひ読んでいただきたい作品です。
主人公は精神疾患である離人症性障害を診断された忍夜景。
その疾患により、自身が自身で無いような感覚に陥ることがしばしば。
精神科に通い、友人の助けもありどうにか日常生活を送ることが出来ている。
そんな中怪しげな人物と出会い、ヴィランという薬を渡される。
タイトルにもあるこのヴィランを服用すると……
登場人物の描写の随所にミステリアスな雰囲気が散りばめられています。
離人症の他、悪魔や統合失調症、美少女転校生などの物語のカギとなりそうな存在もあり次はどうなるんだろうとハラハラします。
カテゴリは現代ファンタジー。どこまでが現実にあり得る描写なのか、ファンタジーな要素なのか不思議な感覚にも見舞われました。
一見難しそうな設定に見えますが、読んでいくと医学知識や悪魔の一般認識など知らなくても内容は理解できます。
文章も柔らかい印象を受けるので読みやすかったです。