3話

「それで。大所帯で遊びに来たわけでもないだろう。用件はなんだ」


 タイトの疑問は至極もっともだ。

 あなたは自分は冒険者であり、新迷宮発見の技法について学びに来たと答えた。


「なるほど。学びに来たというわけか」


 そう言うことだ。


「教えることは可能だ。しかし、教えるには労力が必要だ。それで得られるメリットは?」


 ノウハウ伝授に対する謝礼金の支払い。

 謝礼金で不満ならば、なにかしらの貴重な道具の提供。

 それらでもダメならば、労働力の提供になるだろうか。


 迷宮探索において、有力な冒険者の助力は得難いもの。

 人数を頼みに攻略をしているあたり、迷宮踏破の名誉はさして求めてはいまい。

 求めているのは実利。得られる戦利品だと思われる。

 攻略への助力と、得られた戦利品の提供などになるだろうか。


 あなたに出来るのはこれくらいだ。

 教わる側の立場なので、誠意をもって正直に答えた。

 妙なはったりや嘘を吐いてもしょうがない。

 教えてもらわないとにっちもさっちもいかないのだし。


「誠実だ。実にいい」


 あとはあれだ。

 女専門だが、娼婦として全力で働くとか。

 この前哨基地にいる女すべての性欲を満たし切って見せよう。


「…………」


 タイトが自分の顔を覆って俯いてしまった。

 どうしたのだろう。そんなに変なこと言ったろうか。


「いや……女好きの女と言うだけだ。常軌を逸してはいまい。すまない、少々自失した」


 すぐに気を取り直してか、タイトがそう謝って来た。

 なんだかよく分からないが、そう言うなら謝罪は受け取ろう。


「まず、答えから述べる。教えよう。だが、見たところ腕利きだ。違うか?」


 腕利きかどうかで言えば、あなたは腕利きだ。

 しかし、この大陸の迷宮探索に慣れているわけではない。

 ソーラスは踏破したが、そのソーラスしか挑戦していない。

 まして、迷宮を見つけ出すなど、やったことすらないのだ。

 だからこそ学びに来たわけなのだが。


「あんたは誠実だった。言葉に誠意があった。仕事をする上で重要なことだ。損得だけじゃ仕事はできない。少なくとも、長くは続かん」


 突然の仕事観の表明にあなたは首を傾げる。

 言っていることは分かる。納得するかはともかく。

 しかし、それがいったいどうしたのだろうか。


「あんたが誠実に振る舞った。なら、俺も誠実に振る舞おう」


 タイトの真摯なまなざしにあなたは頷く。

 なるほど、あなたの態度が気に入ったということらしい。


 実力ではあなたの方が圧倒的に上であっても。

 新迷宮の探索と言う分野においてはタイトが上だ。

 先達を疎かにすると、結局痛い目を見ることが多い。

 長く冒険者をやっていれば、おのずと分かるものだ。

 だからこそ誠実に振る舞ったのだが、それが功を奏したわけだ。


「迷宮を探すのに特別なことはない。地道に探すだけだ。特別な方法があるわけじゃない」


 なるほど。身も蓋も無い。


「だが、強ければすぐ見つかるものでもない。人数が多い方が有利だ。そう言う意味では、俺たちと協力体制を作る方が有利かもしれん。どうする」


 あなたは少し考え、せっかくだからその誘いに応じることにした。

 特別な方法がなくとも、適した方法はあるはずだ。

 既に慣れた者たちに混ざってやることで学べるものもあるはず。


 べつに、この『トラッパーズ』前哨基地の女の子と遊びたいとか。

 せっかく領主の仕事から逃れたのだから羽目を外したいとか。

 異常者相手ならヤリ捨てても心が痛まないので気楽に遊べるとか。


 そう言う邪な理由があるわけではない。

 そう、あくまでも冒険者として先達を尊重しているだけだ。

 あなたはそのように結論付けると、タイトに協力させてくれと頼んだ。


「わかった。まぁ、いまはもう夜だ。朝を待つことだ」


 どこかにテントを張りたいが、使っていい場所はあるだろうか?


「周辺の宿舎に空き部屋があるはずだ。カリーナ」


 タイトがそう呼びかけると、空を眺めていた少女がこちらへと向かってきた。

 染髪しているのか、やや紫がかった独特な髪色の少女だ。


「どうしました、タイト」


「協力者ご一行だ。どこか空きのある宿舎に案内してくれ」


「わかりました」


 多少鍛えているようだが、冒険者っぽくない。

 この規模の所帯なので、事務型の人員もいるのだろう。


「えっと、カリーナ・E・ディキンソンです。一応、戦闘班です……でも、普段は雑用してます」


 戦闘班らしい。しかし、戦闘技術はないように見える。

 魔力もほとんどない。どうやって戦うのだろう?

 まぁ、詮索するのも失礼だろうと、特に口にはしなかった。


「案内、しますね。こちらです」


 あなたは促されるままカリーナの後について行く。

 周辺の熱気林の中に林立する建物の多くは宿舎のようだ。

 中で既に休んでいる者も居れば、なにか仕事でもしているのか明かりが灯っているところもある。


「わあっ!」


 思わずその声に耳を澄ませていると、背後で慌てた声。

 振り返るとクロモリが転んでいた。


「大丈夫ですか? 真っ暗ですから、ちょっと厳しいですよね」


「す、すみません、アキラさん」


「すいません、お母様、ランタンをつけてもらえますか?」


 言われて、あなたは『ポケット』からランタンを取り出した。

 シャッターを開けると、内部に付与された『持続光』の光が漏れ出す。

 考えてみると、周辺に明かりはほぼ無く、自分の手すらも見えないだろう闇だ。


 あなたはエルグランドの民だ。

 普通の闇では光源を必要としない。

 しかし、クロモリはそうではない。

 どうにもこれだけはいつまでも慣れない。


「あ、ご、ごめんなさい……私が明かりを用意するべきでしたね……ごめんなさい」


 カリーナが謝って来たが、謝罪されるほどでもない。

 あなたはクロモリにランタンを渡す。


「すみません、あなた様……皆さん、夜目が効くのですね……」


 そう言われてみるとそうだ。

 あなたはともかく、『アルバトロス』もカリーナも。

 真っ暗闇の中を平然と歩いていた。

 カル=ロスはエルグランドの民なのだろうが……。


「アキラのデータリンクがあるので」


「周辺地形をサイコメトリで把握して、地形情報をみんなの脳に直接流し込んでるだけですよ。見えてるわけではないです」


 十分凄いことをやっているように思える。


「カリーナさんも、サイキックですね。プレコグニションと、微弱なサイコメトリのようですが」


「は、はい! その、そんなに強力ではないんですけど……」


「プレコグニションは不安定な能力ですからね。サイキックは数が少ないので、仲良くしていただけると嬉しいです」


「こ、こちらこそ! あ、アキラさんみたいに、強力なサイキッカーの方は珍しいので! よろしくおねがいします!」


「はい、こちらこそ」


 カリーナもサイキックで周辺を把握していたらしい。

 なるほど、サイキックによる戦闘をするのだろう。

 あなたはサイキック能力がないのでサイコパワーは読めないのだ。

 相手がサイキックか察知もできないし、当然力量も分からない。

 案外、カリーナもかなり強力なサイキックだったりするのかもしれない。


「あ、その、それで……こ、こっちです……宿舎に、案内します」


 あなたたちは再度カリーナに案内されて宿舎へと向かった。




 辿り着いた宿舎は、木造の建築物だ。

 高床式の建築物となっており、なんともエキゾチックな雰囲気だ。

 エルグランドにもこういう形式の建物はあった。

 たしか、地面の凍土を溶かさないための工夫だ。

 こちらの大陸ではどういう利点があるのだろう?


「ど、どうぞ。この宿舎は、今のところ私しか使ってないので……す、好きな部屋、使ってくださいね」


「プレコグで私たちの来訪を予見していたのですか?」


「す、少し違います。だれか来るとは思っていたんですけど、曖昧だったので……い、一応、開けるだけ開けただけなので……」


「その精度が出せるだけすごいですよ」


 宿舎の中に入ると、さして広くもない広間があなたたちを出迎える。

 植物を編んで作った筵がカーペット代わりに敷かれている。

 同様の素材で編まれた椅子も置いてあり、非常に新鮮な光景だ。


 そして、広間の奥には8つの扉が並んでいる。

 個人部屋のようでネームプレートがついている。


「わ、私の部屋は、左端です。すごく狭いですけど、ね、寝るのに不自由はしないはずですので……」


「個室があるだけありがたいです。家ではいつも雑魚寝でしたからね」


 あなたも部屋の広さにこだわりはない。

 いざとなったら『セイフティテント』を設置するし。

 アレを使えばいつでもどこでも広い部屋が使える。


「で、では、もう夜ですので……皆さん、もう、休まれた方がいいと、思います……」


 正直を言うと、先ほどまで昼間だったのでまったく眠くはない。

 だが、そのままでいると夜明け頃に眠くなってしまうだろう。

 しょうがないので無理やりにでも寝るしかない。


 あなたたちは各々適当に部屋に入る。

 カル=ロスら『アルバトロス』チームが右端から順に。

 そしてクロモリが『アルバトロス』チームの隣部屋に。


 カリーナの部屋の右隣2部屋が空いている形だ。

 どちらに入っても一緒だろうと、あなたはクロモリの隣の部屋に入ろうと向かう。


「あ、あの」


 が、その前にカリーナに止められた。

 どうしたのだろう?


「その、あ、あなたって、本職は娼婦……ですよね?」


 そんなところまでサイキックで知れたのだろうか。

 そうだとすると、意外と広範囲に物を知れるらしい。

 ともあれ、あなたはカリーナの問いに頷く。


「い、いくらですか……? こ、コースとか、あります?」


 カリーナが懐から財布を取り出しながら、そんなことを尋ねてきた。

 なんてことだ、あなたを娼婦と知った上で買おうとするとは。

 気弱そうで態度がオドオドとしているが妙に豪胆である。


 しかし、買われる分には文句などない。

 楽しませてやるし、楽しませてもらおう。


 しかし、値段の設定はどうしようか?

 この大陸では娼婦として働いたことがない。

 まぁ、一般的な価格に設定すればいいだろう。


 あなたは金貨1枚でいいよと答えた。

 比較的高めの値段だが、高級娼婦としては破格の値だ。


「や、安いっ……! こんな若くて可愛いのに、金貨1枚……! あ、あの、オプションってどうなってますか? つい、追加料金は?」


 逆に聞くが、カリーナはどんなオプションが欲しいのだろう?


「え、えっと、ナマ本番は、いくらですか?」


 ナマ本番なかったら娼婦じゃないだろうに。


「えっ! じゃ、じゃあ、もしかして、基本料金だけでオーケーですか!」


 もちろんだ。


「お、オナ鑑、下着持ち帰りとかは……」


 下着は代替品を用意してもらえれば追加料金なしだ。


「さ、サービス、良すぎ……! 優良店……! 女の子のレベル高いし、今の時点でリピート確実……!」


 喜んでもらえてなによりだ。

 さて、それでお買い上げいただけるだろうか?


「そ、そうですね。えっと、コース料金はどうなってますか?」


 コースとは?


「ろ、60分コースとか、90分コースとか……あ、発射回数制限とかは……」


 発射回数制限……?


「な、何回出していいか……ま、まぁ、女で発射回数と言うのも変ですけど……要するに、何回イッていいかって言う……」


 そう言うのはない。


「は、発射無制限ですか。や、やっぱサービス優良ですね。えと、あと、コースは、な、何分ですか?」


 買った時点から翌日の朝までだ。


「お、お泊りコースが基本コース……!? しかも、発射無制限!? あ、あのっ、1回出した時点で、こ、怖い男の人が入って来たりしませんよね!?」


 どこから男の人が出て来ると言うのだろうか。

 心配は無用だ。あなたは愉しんでやっている。

 金貨1枚で朝まで好きなだけ楽しませてあげよう。

 なんだったらこっちが金を払いたいくらいだ。


「可愛くてエッチな子がこんなに積極的に……! あ、あの、じゃあ、買います!」


 そう言ってカリーナが金貨を5枚ほど渡して来た。

 多いので4枚返そうとしたら、押し留められた。


「お、おお、お小遣いですので……」


 なるほど、娼婦への心づけだ。

 なかなか遊び慣れている。

 では、さっそくいこう。


「は、はい! 私の部屋の方が寝具整ってるので……あ、あれ? これだとソープじゃなくてデリヘルだな……?」


 ソープ? デリヘル?


「あ、な、なんでもないです。細かいことでした。い、いきましょ」


 あなたは頷いて、カリーナの部屋へと入った。

 たしかに、非常に狭い部屋だった。ベッドと、小さな文机があるだけ。

 ベッドが部屋の半分近くを占領している。息が詰まるような狭さだ。

 だが、この狭い部屋で情を交わすと思うと……。


 その狭苦しさが、逆にいいスパイスになりそうだ。

 きっと淫靡な香りが立ち込め、籠り、噎せ返るほど濃厚な性の香りに満ちるのだろう。


 これは愉しめるなと思いつつ、あなたは扉を閉める。

 そして、さっそくカリーナの服へと手をかけた。


「そ、即尺即ベッドですか……い、いいのかな、こんな超高級店みたいなサービス、金貨1枚ぽっきりで受けちゃって……!」


 あなたはカリーナの服の中へと手を潜り込ませていく。

 カリーナの抵抗はなく、むしろ積極的に触らせに来る。

 自分から買おうとして来たあたり、好色なことは間違いない。

 いきなりおっぱじめる方が喜びそうと思ったが、正解だったようだ。


 まったく、こんなエッチな女の子が自分から買いに来るとは……。

 異常者だらけと聞いていたが、来てよかった!


 まったく、明日から冒険だと言うのに!

 これでは今夜も眠れないな!

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あなたはエルグランドの冒険者だ 朱鷺野理桜 @calta

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