箇々田洋佑
小中学校で同級生だった
正史は母親が別の男と再婚したことを複雑に思っていたようだったし、母親が連れてきた新しい父親との折り合いも悪かった。遅れてきた反抗期に直撃する形で母親の『女性』としての部分を垣間見てしまったことは、少なくとも正史にとっては相当に不愉快な事象であったらしい。当然、父親の連れ子である突然できた年の離れた妹のことも、疎ましく思っていたようだった。
その妹、依代ちゃんが突然行方不明になったとSNS越しに知った時は驚いた。正史が一緒にいる時にいなくなったと聞き、初めは同情する気持ちもあった。ただでさえ家族との関係がうまくいっていない時にそんなことが起きては、針のむしろだろう。個人アカウントでSNS上に行方不明者情報を掲載することには思うところもあり、それを自身が拡散してもよいものかは少し悩んだが、すぐに警察署へ確認を取る程度には気の毒に思う気持ちがあったのも事実だったので、協力を申し出ることにした。
結論から言うと、依代ちゃんは約一年後、冥堂市宛拿町の山中で遺体となって発見された。
正史は依代ちゃんを嫌っていたが、依代ちゃんはそうではなかった。新しくできた兄と仲良くしたがっていた。おそらくその日も、依代ちゃんは兄と仲良くしたい一心で、外出する正史について行ったのだろう。
そうして慣れない山中で足を挫いた。また、邪険にする兄へなかなかトイレに行きたいと言い出せなかったのか、さらに寒さや暗闇への恐怖もあったのだろうか、我慢しきれず小便を漏らして衣服を濡らしてしまったらしい。まだ小学一年生の女の子なのだから当然だ。俺なんて小一の時はウンコを漏らした。小学生なんてそんなものだろう。よくあることだし、服なんて洗えば済むのだから、おんぶでもだっこでもして連れ帰ってやればよかったのだ。
でも正史はそうは思えなかったらしい。
あいつは泣きながら謝る依代ちゃんに向かって、川へ入って汚した衣服を洗うように言ったという。12月末の夜に、だ。依代ちゃんは言われたとおり、足をひきずりながらおそるおそる流れの速い川へと入った。それでも正史の怒りは収まらなかったらしく、そのまま彼女を置き去りにしてバイクで下山した。それから麓のネットカフェで2時間ほど時間を潰し、そこで突然冷静になって、慌ててバイクで現場へ戻った。依代ちゃんはいなくなっていた。
ひどい話だ。
一度だけスーパーで顔を合わせたことがあるが、小学一年生にしては随分と礼儀正しく、可愛らしい子だった。本当に可愛い子だったから、いなくなったと知った時は変質者に誘拐された可能性も頭をよぎってひどく暗澹たる気持ちになったものだ。それがまさか、信頼しようとしていた兄によって置き去りにされたなんて。
捜索は正史が警察に伝えた虚偽の失踪場所よりもさらに広範囲に及んでいたため、何日か捜査に協力した俺は、実際に彼女が置き去りにされたという山中を目にしている。あんな寒くて暗い場所に小学一年生の女の子がひとりぼっちで、どれだけ不安で恐ろしかっただろうか。
正史のしたことは当然許せないし、あんな奴を一瞬でも友人だと思った自分も許せない。気付いてやれなかったことも。白骨遺体が発見された山中に心ばかりの花を手向け、彼女のために手を合わせた。
正史は一通り供述を終えた直後から徐々に様子がおかしくなり、現在は身柄を警察病院へ移されているという。
俺からしたら心底胸糞が悪い話だ。様子がおかしくなったのはあくまで犯行が明るみに出てからのことだと俺は信じているので、これで精神鑑定がどうとか言われたら、依代ちゃんも浮かばれないだろうと思う。捜査の続きも先々に控えているであろう裁判も、これではなかなか進められないのではないか。依代ちゃんの親父さんや、正史のお袋さんの気持ちを考えるとやりきれない。
正史は病室でずっと、プロフがどうとかほざいているらしい。
意味が分からない。頭がおかしくなったふりでもしているんじゃないだろうか。
プロフみて~ 木村雑記 @kissamura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます