#025 空想メソロギヰ その7
「えっと……」
呆気に取られた僕が間抜けな声を発していると、
「隙だらけだ」
魔王が目にも止まらぬ速さで僕の懐に近づき、鋭い蹴りを繰り出してきた。
僕はこれをギリギリ右手でガード。
「今までの貴様なら、この一撃で死んでいたはずだ」
確かに、魔王の言う通りだ。
明らかに僕の運動能力と動体視力が向上している。
「しかし俺が貴様と同化した影響で、貴様の肉体と魂に俺の戦闘能力が焼き付いてしまったらしい」
「理屈はよく分からないけど……今の僕は、魔王と同じくらい強くなってるってこと?」
「図に乗るな。今の貴様は、性能だけは完璧なレーシングカーよ。いかにマシンのスペックが高くとも、操縦者の技術が不足していては乗りこなすことはできまい」
つまり僕にはまだ不足している部分がある、ということか?
「絶対的な経験不足。貴様たちには、今この場で魔術の全てを教え込んでやろう」
言って、繰り出される魔王の右ストレート。
これを僕が左に避け、距離を取ろうと考える。
しかし魔王はそれを許さず、後方に体を回して左腕で僕の顔を鷲掴みにした。
「そしてこの逃げ腰な態度」
そのままの回転力で空間の端の壁へ向かって僕の体を投げ飛ばした。
ドゴッ!
僕の背中が壁と激突する。
口から吐き出される、血液。
「小僧は俺が相手をする。残りの二人は任せたぞ、グリエラ」
頬を赤らめ、ボーッとした様子のグリエラ。
しかし魔王の言葉が耳に入った瞬間、覚醒したように強く頷いた。
「お任せ……ください」
「よし」
グリエラの力強い返事を聞いて、微笑みを浮かべる魔王。
そのまま魔弾を生成し、僕に向かって何発か連射してきた。
「ちょ!?」
これをかろうじて避ける僕。
そこに一瞬で距離を詰めて魔王が呟く。
「魔力とは精神のエネルギー」
魔王の打撃が僕の腹部に直撃する。
このダメージはヤバい、今にでも意識が飛びそうだ。
「怒りや恐怖といった強い感情が、より多くの魔力を生み出す糧となる」
僕が地面に膝をついて血反吐を吐いている最中、魔王が説明を続ける。
「そうして生み出された魔力は生物の体内に蓄えられ、術者が扱い切れる量だけ体外で運用することができる。まあ、貴様の場合はその蛇口が俺の力の影響で全開になってしまっている状態だ。魔力があればあるだけ力が発揮できると考えた方がいいな」
ここまでは僕も知識として習っていたことだ。
「そしてやはり本題は、その魔力の運用方法にある。どのような魔術が使用者に適しているか、それは本人次第だ。性格と同じような違いと考えて良い」
「ゲホッ! ゲホッ……要するに、自分に適した魔術を見つけろってことか……」
「そのとおりだ」
いつものように不敵な笑みを浮かべる魔王。
「それが見つけられねばここで死ね、白凪優」
最強魔王様に取り憑かれた底辺ダンジョン配信者、無限の魔力でS級モンスターをワンパンして美少女配信者を救ったら、あまりにも強すぎると話題になり大バズりしてしまう。 イルティ=ノア @iruuunn
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