#024 空想メソロギヰ その6 ─覇刧天魔臨─

「確認だが小僧、俺が小娘を殴ったりしたら……?」

『そんなことしたら絶対許さないからね魔王!』

「で、あろうなぁ……」


 つまらなそうにため息を吐く魔王。

 

「ならば仕方あるまい」


 両手を合わせて掌印を結ぶ魔王。

 それと同時に異質に膨れ上がる魔力。


『何をする気?』

「なぁに、貴様らに本物の”魔術”というものを見せてやろうと思ってな」


 フッと笑いながら魔王が言うと、必死の形相でグリエラが止めにかかってくる。


「まさか……そうはさせません、サタン様ぁ!」

「丁度良い機会だ。存分に学べ、小童ども」


 限界まで高まる魔王の魔力。

 それが掌に収束し、光り、弾けた。


「”戦術解放せんじゅつかいほう”」


 魔王が小さく呟くのと同時に、眩い光が辺り一面を覆い尽くす。


 その光はダンジョンの岩肌というテクスチャを上書きし、まったく別の風景を作り出していった。


『玉座の間……』


 僕はこの場所を知っている。

 

 僕と魔王が出会った場所。

 魔王の魂の心象風景。


「”覇刧天魔臨はごうてんまりん”」


 魔王城を具現化する能力だ。


 広い真っ黒なドーム状の空間。

 ロウソクの灯りが点々とする薄暗い部屋の中。


「これは……」

「ごめんなさい、柚葉さん。やられてしまいました」


 いつの間にか分離して二人に分かれている柚葉さんとグリエラ。

 それどころか僕と魔王も分かれて存在していた。


「これはどういうこと?」

「この空間内で起きる事象は、全て俺の思うがままにコントロールすることができる」


 それで僕たち全員が実態を持って具現化できているのか?


「これが俺の魔術の到達点、戦術解放──覇刧天魔臨」

「魔術の到達点!?」

「ああ。魔術を極めれば、あらゆる不可能を可能にすることができるのだ」


 す、凄い……。


 でも僕なんかは、まだ魔術の基礎すらロクに学んでいない状態だ。

 あまりにもスケールが違う話すぎて何が何だか……。


「小僧、小娘。貴様たちには今から、俺とグリエラで魔術のレクチャーをしてやろう」


 そう言って魔王は目にも止まらぬスピードでグリエラの目の前へ移動し、肩を抱いて柚葉さんからグリエラを引き剥がした。


「ちょ、いきなり何をするのですか!」

「なぁに、貴様はこうして欲しかったのだろう?」


 そう言って魔王はグリエラの頭を優しく抱擁し、熱いキスをしてみせた。


「しゃ!? しゃっしゃしゃしゃしゃしゃしゃ、しゃたんしゃまぁ!?」

「このくらい口で言えばいくらでも叶えてやったものを」


 続けてグリエラの唇を奪い続ける魔王。

 僕たちはいったい何を見せられているのだろう?


「って、あの二人は何やってるんだ!」


 江蘭君のツッコミが空間に響き渡る。


 そういや江蘭君いるの忘れてた。

 一緒にこの空間に引き込まれてたみたいだ。


「よく聞け、三人の小童ども。これから俺とグリエラが、貴様たちに魔術のレクチャーをしてやろう」

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