#023 空想メソロギヰ その5
「グリエラさん。貴方は、器として攫った人の命までは奪っていませんね?」
「ええ……でも柚葉さん、何故貴方がそれを?」
「私の能力、と言えるほどの完成度ではまだありませんが……周囲にある魂を感知することができます」
こちらを向きながら何かを話し合う二人。
「確かにそうです。不完全とは言え、私と同化できる器ですから。魔力さえ回復すればもう一度同化できるので、最下層で眠っていただいています」
「今の貴方と同化している器も含めて、無事返すと約束してくれるなら……私から提案があります」
柚葉の言葉を聞いたと思ったら、その場に突然倒れるグリエラ。
いや、顔が違う。
倒れたのは器だった人間だ。
『ならグリエラの魂は?』
「なんてことをしてくれたのだ、あの小娘……」
冷や汗をかく魔王。
初めて見る動揺っぷりだ。
いったいグリエラと柚葉さんに何が、って……えぇ!?
「ここに契約は結ばれました」
柚葉さんの声。
いつも聞いている優しい声だ。
しかしその中に何処か静かな怒りが込められている気がする。
「私と柚葉さんの願い、それは……」
柚葉さんの雰囲気が明らかに変わった。
これは僕と魔王と同じ関係なのでは?
「お互いが愛する者と一生を添い遂げることッ!」
柚葉さんの全身から凄まじい量の魔力が溢れ出す。
「やりやが、った……」
絶句する江蘭君。
僕も今同じ気持ちだよ……。
「これは厄介なことになったぞ」
警戒して構えを取る魔王。
すかさずそこに柚葉さんと同化したグリエラが突撃してくる。
「サタン様ァァァ!!!」
ヤバいくらいの勢いと剣幕でグリエラが繰り出した突きを紙一重で避ける魔王。
間髪入れずにグリエラが蹴りを連発してきた。
これを魔王が面倒そうに素手で払いながら呟く。
「なんだ?」
「好きです! もうむっちゃ大好きです! サタン様!」
ハッキリぶっちゃけながら、超高密度の魔弾を生成するグリエラ。
それを至近距離で魔王にぶっ放してきた。
ドゴンッ!
魔王は避けた、が魔弾が直撃した地面と壁が大きく抉れる。
柚葉さんの体から放たれたとは思えない、凄まじい威力だ……。
『ごめんねぇ〜、優君』
柚葉さんが魂の繋がりを辿って直接僕に話しかけてくる。
『柚葉さん……一応聞くけど、なんで?』
『う〜ん、女の感……かな?』
『……あはは。よく分かんないや』
『そんなんだから私の気持ちにも気づかないんだよ』
怒気を含んだ柚葉の声に背筋がビクッと跳ねる。
『……え?』
『私、優君のことが好き。最初からずっとそうだった。告白された時、ちょっと恥ずかしくって誤魔化しちゃったの……グリエラさんとシンパシー感じちゃって』
『だからって、同化するなんて……そんな危険なことしなくても……』
『そうじゃないと優君に想いを伝えられないから……』
思いを、伝える?
『同じ立場に立って、相手を支える。それが私の目指す愛の在り方なの』
「だから貴方たちを殴り飛ばします」
意味の分からない返答をする二人。
相変わらず困惑した様子の魔王。
「これだから女という生き物は面倒だ……」
『どうする、魔王?』
一瞬考え、息を吐き、いつものように不敵な笑みを浮かべながら魔王が言う。
「ちょうど良い、忘れたというならば見せてやる。何故俺が魔王と呼ばれているのか、その力の片鱗を──」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます