2度目の人生②

どこから、どう見ても自分だった、

はっきりとこの状況が理解出来た。

ぼくは、隣の家のお金持ちのあきおくんとして生まれたが、昔の自分は自分として存在してる。

昔の自分だから、理解できる、

だって、アホみたいにサッカーボールを追いかけていたのはぼくだから。

そこからの日々は実に不思議だった。

家では、あの憧れの綺麗でスタイルの良いお母さんが、ぼくを愛してくれる。

一緒にお風呂に入ったり、目のやり場に困る事態にもかなりの頻度で遭遇はしたが、

それにも時期慣れた。

やはり1番不思議なのは、昔の自分が隣に住み、一緒の小学校に通い、ぼくの家に遊びにもくる。彼がすることは全てお見通しなのでゲームをしても負けないし、2度目の人生の利点を活かし、勉強も負けない。

ただ、彼の運動神経には敵わず、これは少なくとも遺伝が関係しているものだと思ったりもした。

昔の自分は全てが自分中心に回っていて、周りのみんなもそれに納得していると思い込んでいたが、実際には違ったようだ。

今、思うと当然だ。

昔の自分が、あきおくんをお金持ちでゆとりのある子と思っていたが、違った。

冷静に昔の自分を見られてたのだと思った。

このあたりから、今のぼくと昔の自分の境界線がわからなくなり始めた。


昔の自分を見ながら過ごす日々は実に、モヤモヤするものだった。

授業中に張り切って、手を挙げるも、解答を間違え、そのことを人の性にしたりする姿や、ちょっと運動神経がいいだけで、将来プロサッカー選手になると豪語している自分。

その時は感じてもいなかった、周りの冷ややかな目線を今のぼくが感じる。

たまに、家に遊びに来ても、昔の自分は、綺麗なお母さんを下から上に舐め回すように見て、ちょっとほくそ笑んだりしてる始末だ。

逆のパターンもあった。

昔の自分の家に遊びに行き、当然そこには昔の家族がいる。

この先、宝くじを毎年5万円分も買い続けるが3000円すら当たらないことや、親父が若い女と不倫していると疑った母が探偵を雇ってみるが、結局不倫などしておらず、調査費用だけが消えたことなど、言いたいことは山ほどあるが、言えない。そんな日々を過ごした。


中学生とき、事件が起こった。

昔の自分が家出したというのだ。

慌てている、昔の母を見て思い出した。

そうだ、昔、家出したなーと。

はっきりと覚えていないが、親父と些細なことから口論になり、家を飛び出した。あの時は、自転車に乗りリュックに最低限の荷物を持って、絶対家には戻らない。そう覚悟を決めて家を出たことは覚えている。

ぼくは、思った。

「あー、あいつはあそこにいるよ」と。

ただ、場所を伝えたところで信用してもらえないだろうし、ぼくは自転車に跨り、探してくるフリをして、家を出た。

自転車で30分ほどするところに、彼がいた。

やっぱりここだったか。

当然だが、そう思った。

近づいて彼の背中に手を掛けようとしたとき、ふと思った。

「あれ?何て声掛けたらいいんだろ?」

「あの時、あきおは何て言ったっけ?」

確かに家出したとき、何故かあきおがやってきて、色々話しているうちに、家出が馬鹿らしくなり帰ることにしたが、その日はあきおの豪邸に泊めてもらった記憶だけがある。


何で家出したんだっけ?

何が嫌だったんだっけ?

この時の自分は何て言って欲しいんだっけ?

そんなことを、彼の背中をトンとするまでの10歩ぐらいで必死に考えた。

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気持ちよく死んだはずが、また人生はじまっちゃった件 ぽんすけんた @ponsukenta

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