第5話 キングラクーンの討伐
「さて、どんな仕事をくれるんだ? 」
事務の女性は小声でレイナに
「ねぇレイナ、ほんとに? なんか性格きつそうだけど、あんた良い人だって…… 」
「もう、ミロは疑り深いなぁ、ほんとに恩人で凄い人なんだってば。 いいからお願い! 」
「しょうがないなぁ~ 」
ミロという事務の女性は、若干投げやりな手つきで、羽輪原の前に一枚の紙を置いた。
「はい、どうぞ『キングラクーンの討伐』よ。 近くの村に巣を作って、農作物を食い荒らしているらしいの。 貴族に人気の果実で儲けている村だから、報酬はかなり良いわ。 かなり剣が使えるんでしょ? なら簡単よ、たぶん」
「これは良い依頼ですね羽輪原さん。 羽輪原さんなら得意ですよね? ありがとうミロ! 」
「いや、得意かは知らないが、キングラクーン?? 大きなたぬき…… いやアライグマか? 」
羽輪原の脳裏に、前世で見た都会のごみ箱を荒らすアライグマが浮かぶ。
「まぁ、それならたぶん見たこともあるし、いいか」と羽輪原。
「受けるなら、ここに名前を書いてちょうだい。 村までは半日もかからないわ、期日は10日間よ」
「問題ない。 もちろん受ける」
羽輪原は、受け取ったペンで、名前を書いた。
「見慣れない文字ね…… 」
「やはりか――、気にするな」
◆
ギルドを出た羽輪原は、レイナと別れて一人、適当な宿に泊まり、翌朝早くに村を目指した。
「レイナの話では、村にも宿はあるということだからな。 今日中に移動して、話を聞くとしよう」
移動は徒歩だ、羽輪原の装備が必要最低限で身軽ということもあり、あっという間に村が見えた。
食料とシンプルな剣は、街を出るときに露店で買ってきたものだ。
「昼前に到着したのは良いが、この服装、敗れたスーツに剣…… レイナは居ないし、この格好で村の中に入れるのか? 」
羽輪原が村に近づくと、そこに門番は居らず、入口が厳重に封鎖されている。
「あれは、昨日の昼に倒した熊! サイズが若干大きいが同じ種類だろうな」
おそらくは、その熊を恐れて、村人が入口を閉じているのだろう。
時折、村の中から矢が飛んでくるが、全く効いている気配が無い。
「チッ…… 邪魔だな」
道を塞ぐ、大きな熊にキレる羽輪原
「レイナはあれを売って金にしていたな。 しかも俺への分配金だけで、宿代が十分に払えた……ということは効率も良く、いい稼ぎになるはず。 弱かったし、あれも買い取らせるか」
羽輪原は鞘から剣を抜き、二足で立ち上がっている熊に近づくと、素早く右足に一撃、移動しながら腰に一撃、左足にも切りかかる。
「これで留めだろう」
態勢を崩して、ドスンと前のめりに倒れた熊の頭を切り、息の根を止めた。
「ほんとに鈍い熊だな、こいつは」
すると、村の中から歓声が上がる。
どうやら、高い建物や塀の隙間から、羽輪原の狩りを見ていたらしい。
しかし、その歓声はすぐに悲鳴とどよめきに変わった。
「そこの人! はやく村に入れ! あと三匹も来てるぞ! 」
村人の声に羽輪原が振り返ると、確かに同じ獣が三匹、こちらに近づいてきている。
村人は縄はしごをかけて、羽輪原を呼ぶが
「鈍いやつが何匹いたって、そんなに変わらないだろう」
と聞く耳を持たない。
自分から熊に近づくと、先ほど同様に、仕留めていく。
さっきまで怒鳴っていた村の老人も
「なんて強さだ…… 」と震え声で呟いている。
羽輪原は「これは、俺の獲物だ! 」と大声でしっかり主張したあと
「それで、俺はキングラクーンの討伐に来たんだが? 話がしたい」
羽輪原が村人の一人に話しかけると
「おぉおお…… あんた。 そいつは今、全部あんたが倒しちまっただろ…… 」
「は? 」
羽輪原は
パワハラ上司が転生したら、勇者扱いだった件 ~異世界でもパワハラ(パワーを使ってハイクオリティなライフを送る)します~ ひたかのみつ @hitakanomitsu
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