心の声がダダ漏れな渡辺さん

@sujico

第1話 渡辺さん

ガラガラガラ

「おはよー」

僕は藤ヶ丘高校に通う普通の高校2年生、山本彰。今日も気力のない挨拶をしながら教室に入る。

「おはー」「おはよう」「おはようございます」「うぃーっす」

所々から挨拶が聞こえた。無視されなくて本当に良かった。無視された時のあの空気はまじで耐えられない。というか「うぃーっす」ってなんだ。…まあいいか。

僕は自分の席へと向かった。

「おはよう、渡辺さん。」

「おはよう、山本くん。今日はとてもいい天気ね。昨日はあんなに雨が降っていたのに。」

この人は渡辺香織さん。1年生の時からずっと同じクラスで、席も1年生の時から隣同士だ。

「だね〜。久しぶりに晴れて嬉しいけど、暑い…」

今日も綺麗に整えられた黒髪が太陽の光を反射する。

「そうね、帰りにアイスでも買っていこうかしら。学校が終わったら一緒に買いに行きましょ。」

「了解。楽しみにしておくね。」

デートじゃん。横を見ると渡辺さんが顔を真っ赤にして

「……誘っちゃった…。はわわわわ。う、嬉しい。こ、こここ、これって、ででで、デート、ってこと?!」

…めっちゃ喋ってる。

「渡辺さーんまた心の声が出てるよー」

この人は心で思ったことがそのまま口に出てしまうらしい。最初の方…1年生の時は聞こえてもスルーしていたのだが、2年生になったら、心の声の…レベル?が上がってきてしまい、流石にスルーが出来なくなってきたのだ。正直に言ってとても可愛い。

「!!!!!!!私ったらまた……。恥ずかしい。」

渡辺さんはゆでダコのように、さらに顔を真っ赤にしてしまった。

「喜んでくれるのはとても嬉しいんだけど…流石にこっちも恥ずかしいかな…。」

僕は苦笑を浮かべながら言った。

「そ、そうよね…浮かれすぎたわ。と、とにかく!私も楽しみにしておくわ!」

必死に平然を装う渡辺さん…可愛い。守りたいこの笑顔。

「そ、そうだね!ぼ、僕も楽しみ!楽しみって2回言った気がする!!」

ここまで読んでくれたあなたなら分かるかもしれないが、僕、山本彰16歳(まだ誕生日が来ていない)は絶賛渡辺さんに恋をしている!!!!!!!だから、一緒にアイスを買いに行こうと言われ、叫び出したくなるほど嬉しかった。我慢して出さないようにしていた。恥ずかしいもん。

「ほーい。じゃあホームルームを始めるぞ〜」

ここで担任の先生が入ってきた。友達と話していた周りの人達は、自席へ戻っていく。まだ1日が始まったばかりなのに、既に疲れている。横をチラリと見ると、渡辺さんはまだ顔を赤くしている。先生がこちらを見る。

「ん?どうした渡辺。顔が真っ赤だぞ。」

そりゃあ先生も心配するわな。こんな赤いんだもん。

「い、いえ!大丈夫です!」

ワタワタしている…可愛い。

「そうか、なら今度こそホームルームを始めるぞ。今日は…うん、特にこれといったことはないな。今日はかなり気温が高いから、こまめに水分補給をするように。それじゃあ。」

先生が教室から出ていくのを見届けて、また渡辺さんの方を見る。まだ若干顔が赤い。

「じゃあ1限目の用意をしようか。」

「そ、そうね」

「まだ顔が赤いけど、本当に大丈夫?」

まぁ、原因は心の声が漏れてると伝えた僕なんだけど。

「だ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」

渡辺さんは手をブンブン振って否定する。

「そっか。それなら良かった。」

「………恥ずかしかった。」

……スルーした。え?可愛かったかって?そりゃあもちろん。こんな感じで今日も心の声がダダ漏れな渡辺さんと過ごす。おかげで2年生に上がってからは毎日楽しい。いつか、この思いを伝えられたらいいな…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

心の声がダダ漏れな渡辺さん @sujico

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ