第38話 エピローグ

「お義兄様縛ってください。私を縛ってください!!」

「落ち着くんだリリスたん。急にどうしたんだ!?」


 ヘラ教徒との戦いが数日たって、ブラッディの館は喧騒につつまれていた。騒いでいるのは珍しいことにリリスである。


「ナツメから聞きましたよ。私が眠っている間にヘラがお義兄様のベッドに忍び込んだんでしょう? そんな破廉恥なことは許されません」

「あー……」



 ブラッディは思い当たったとばかりに声をあげる。そう、一度リリス目覚めたからか、ヘラはリリスが眠って意識を失っている間に時々彼女の体を乗っ取って好き勝手やっているのだ。



「まあ、ヘラたんもずっと孤独だったから、寂しいんだろ」

「違います。彼女はお義兄様の貞操を狙っているんです!! 現に下着姿でもぐりこんだらしいじゃないですか、ナツメが拘束しなければどうなっていたかわからないんですよ」

「いやいや、さすがにそれはないだろ。神様は価値観が違うから、服がじゃまだったんじゃないか? 宗教画とかも裸が多いし……」

「だいたい、お義兄様だって、エッチな気持ちになってしまうんじゃないですか?」

「え……?」



 確かにリリスは絶世の美少女であり、推しである。しかも、原作よりも胸元など豊かになっておりより魅力的になっている。

 そんな女の子と同じベッドでしかも抱き着かれたりすれば、男として反応はしてしまうのも無理はないだろう。もちろん、襲ったりはしないが……



「まあ、さすがの俺もあんな状況でだと興奮しちゃうけど、間違いはおこさないから安心してくれ」

「むぅぅぅぅぅーーーー。私が迫ったときは受け流すのに……」



 安心させるようにブラッディが微笑んだが、なぜかリリスは無茶苦茶不満そうにほほを膨らませる。

 そして、二人のやり取りを、にやにやわらいながらこっそりと聞いていたソラが口をはさむ。



「リリス様……ならばよい案があります。このままあなたの想いを告げましょう。ヘラ様に先を越される前にあなたが結ばれるのです」

「な……な……」



 耳打ちするソラの言葉を聞いたリリスの顔がりんごのように真っ赤に染まる。そして、リリスはブラッディを一瞬見つめて……



「お義兄様……その……ですね……久々に甘えたいです。ぎゅーしてください」

「ああ、もちろんだよ、リリスたん」



 結局ヘタレたリリスは顔を真っ赤にしたまま、その気持ちを隠すかのようにブラッディの胸元に顔をうずめる。

 後ろでソラが頭を抱えているのを見ながら、ブラッディは大きな決心をしていた。



 俺がこのシナリオの強制力に打ち勝てたら……リリスの気持ちとちゃんと向かい合おうと……


 ブラッディは鈍感である。だが、ソラやナツメなどの周りの雰囲気と、助けに来た時のリリスの反応から、もしかしたらという考えはあった。


 そして、決定打となったのはヘラにキスをされたことである。あの時彼女はリリスと自分が同じ気持ちだと言っていたのだ。

 儀式などとは言っていたが、魔力は感じなかったのだ。それなら考えられることは一つ。彼女は自分とキスをする口実にしたのだろう。



「思い返してみればリリスたんはずっと俺に好意を寄せていたのかな……」



 元々ブラッディはリリスが推しである。自分以外とむすばれるのが幸せになるのならば、喜んで身を引くが、彼女が自分のことを異性として好きでいるならばこれまで以上の全力を出して幸せにするつもりである。

 まあ、ぶっちゃけ、推しに好意をもたれるのはむちゃくちゃうれしいのである。



「もうちょっとだけ待ってくれよ、リリスたん」

「え、何をですか?」



 きょとんとした顔をあげたリリスの頭をなでると、ふにゃーっと幸せそうな笑顔を浮かべる。



「えへへ、久々に素顔のお義兄様に甘やかせてもらって私すっごい幸せです」

「そうか……それはよかった」



 今の自分はまだ完全にシナリオの強制力から脱したわけではない。このままでは仮に結ばれても定期的に罵倒するDV彼氏のようになってしまう可能性がある。

 だから一刻も早く魔法の研究を進めることを誓うのだった。そうして、二人の関係は少しずつだがすすんでいく。




 ここはブラッディの屋敷の書室である。そんな中に一人の天才が一心不乱に魔導書を読み漁っていた。



「随分と精が出ますね」

「ナツメか!! 天才である僕に何の用だ? 悪いが今は無駄話をしている余裕はないんだ」


 ヘラから妹の話を聞いた後彼はろくに睡眠もとらずに、アレイスターの本を読み漁っていた。


「あなたは家族が……妹さんが大切なのですね」

「当たり前だ。僕にとってはたった一人の肉親だからね。救う方法が見つかったのならば躊躇する意味はないだろう」



 魔導書から目を離さないヘクトルに無表情なナツメはなおも口を開く。



「お忙しい所申し訳ありませんが、二つほどご質問をさせていただけませんか? 返答によっては私も力を貸せると思います」

「……一体何だい、その顔……ブラッディの指示じゃなさそうだねぇ」



 ナツメの様子にただならぬものを感じ取ったヘクトルが魔導書からナツメに視線を移すと口を開く。



「まずはあなたはその魔法でブラッディ様を……今のブラッディ様を消し去る気はないですよね」

「ふん、当たり前だろう。僕が親友と認めているのは今のブラッディだ。本来の人格になんて興味はないからね」



 一見残酷そうに聞こえるがヘクトルは自分が間違っているとは思っていなかった。彼が力を貸したいと思い友情を感じているのは今のブラッディなのだから……

 そんな彼の答えに満足そうにナツメはうなづいた。


「もう一つは……その魔法が完成すれば、異世界に連れていかれた人間が元の世界に戻ることも可能なのでしょうか?」

「それは……君はブラッディやリリスさん、メイドたちと仲良くしていると思っていたんだけどな……」



 ナツメの目的に気づいたヘクトルが眉を顰めるがナツメは気にせずに言葉を続ける。


「ごめんなさいを言いたいんです」

「え?」

「あの日、私は目覚ましを勝手に止めた母にひどいことを言って家を出たんです。それで日中にもうしわけないなって思って……母の大好きなケーキを買って帰ったんです。でも、そのケーキを渡すこともあやまることもできませんでした。だから、ごめんなさいを言いたいんです」

「すまない……僕はきみのことを何も知らないのに軽率だった」



 淡々と語るナツメの言葉に頭をさげるヘクトル。今の彼女は無表情だったけれど、その瞳には悲しみと後悔、そして、強い意志があった。



「だけど、バニッシュが完成しても君が元の世界に帰れるかはわからない……それでもいいんだね」

「はい、帰れればラッキー程度にしか思っていないのでご安心ください。それでは私も手伝うとしましょう。冒険者ギルドに伝手があるのでお役にたてるかと……」



 そうして二人もまた新しい目標をきめたのだった。





 これにて一旦完結となります。

 

 ようやくリリスの気持ちにブラッディ君も向き合うようになりましたね。


 読んでいただきありがとうございました。ナツメの話とかちょっと物足りなかったかもですが……楽しんでいただけたら幸いです。



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世界を滅ぼす冷酷無慈悲なラスボス令嬢(最推し)の義兄に転生したので、『影の守護者』として見守ることにしました〜ただし、その正体がバレていることは、俺だけが知らない。 高野 ケイ @zerosaki1011

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