第3話 推し様は聖……せい騎士様

 いや、確かに、好きで、好きで、大好きだけど、やはり推しは一定の距離から応援するのが良い!!

 本物が目の前に居るとか恐れ多くて無理!!


「推しとは、私に元気を与えてくれて、仕事のモチベをあげてくれる存在なのです! 同じ推し仲間を増やし、一緒にあがめる為に勧めたりもします!」


「……アヤメは、私のことを好きになる人に、私を勧めると……」


 突然エヴァン様の纏っている雰囲気が変わった。


 えっ、なっ、何? なんか怖い。


 エヴァン様は、突然私の両手首を掴んで引っ張り、ベッドへ押し倒して覆い被さってきた。


 ひょわぁぁぁぁっ!


 美しい顔がっ、顔がっ近いっ、近い近いーっ!! 心臓がヤバいって! 破裂するって! 死ぬっ死んじゃうーっ!!


「私を拒絶する言葉を吐いたくせに、そんなに顔を赤らめて、どうしたんですか?」


 ひぃぃぃぃっっ!!


 拒絶なんてしてないよー!

 そして耳元でそんな美声イケボで話さないでー!!


 そして凄く暴れてるのに、びくともしない。流石マッチョ……じゃなくて、何故こんな状況に?!


 エヴァン様は、暴れる私を物ともせず、左手で私の両手首を掴み直し、右手で私の頬を撫でた。


「私の事を好きではないのですか?」


 切なそうな表情でそう問いかけてくる。


 あかん、美しすぎて鼻血出そう。


「すっ、好きですよ? ただ、それは恋愛の好きでは無くて、信仰的な……」


「好きなら恋愛でも信仰でも同じではないのですか? 現にこうしてアヤメは私に組み敷かれて真っ赤になってます」


 あばばばばっ!


 『組み敷く』とかそんなイケボで言わないでー! 変な想像しかできないからー! 


「やっ、それっ、それはっ、エヴァン様のご尊顔の破壊力に、私の顔面が耐えきれず毛細血管が破裂してるんですーっ!!!」


 よくわからない説明をしてしまった。


「それだけ、私の事が好きってことではないのですか?」


 徐々に近付いて問うてくる。


 ぎゃぁぁぁっ!! 美しいっ! 近いっ! 無理ーっ! ドキドキし過ぎて心臓痛いーっ! 息できないー! 死ぬーっ!!!


「すっ、好きです、好きですよっ、すっ、好き過ぎて心臓が耐えられませんっ!!!」


 はっ! 私、今何て言った?!


 直視できずに思わず瞑った目を開けてエヴァン様の様子を窺うと、エヴァン様はとってもいい笑顔でこちらを見下ろしていた。


 あれ? もっ、もしかして……確信犯?!


「では、大丈夫ですね?」


「はっ? えっ? 何が?」


 ニコニコ顔のエヴァン様……何か嫌な予感がする……。


「愛する人を見つけたら戻れるんですよ?」


「あっ、元の世界へ戻るんですね? あれ? 見つけたら戻れるなら、私の気持ちの確認は必要ではなかったような?」


「アヤメも一緒に来るんですよ?」


「は?」


 えっ? 私も異世界へ行くの?


「私の事が好きすぎるんですよね?」


 こてんと首を傾げて問いかけてきた。


「いや、その……」


「そう言いましたよね?」


 少し離れていた顔を、ぐぐっとまた近付けてくる。


 ひぇぇぇっ! そのご尊顔を近付けないでーっ! 心臓が口から出てくるーっ!!


「ひゃっ、はっ、はい……」


 そしてそのまま、エヴァン様にお姫様抱っこをされ、押入れの部屋に戻り扉を開けると、周りが光り輝き目の前が真っ白になった。




*―*―*―*―*




「――――というのが、エヴァン様との出会いでした」


「うわぁ……強引……」


 目の前には黒髪黒目の可愛らしい女性がいる。

 名前は加藤かとうめぐみといって、同い年で私と同じく日本人だ。


 彼女はゲームの事は知らず、数年前に突然やってきた近衛騎士団長のディラン様に一目惚れされて、精査スキャンの魔法により気持ちを暴露され付き合い、婚約、結婚とうまい具合に流されたらしいが、今はとても幸せそうだ。


「エヴァン様がそんな強引だったとは……凄く優しそうで穏やかなのに、見た目によらないんだね〜」


「うん、見た目とは全然ちがうね……でもまぁ、強引な所も素敵で推しポイントあがったんだけど」


「彩芽ってさ……」


「えっ? 何?」


「いや、エヴァン様が強引で良かったんじゃない? って思っただけー」


 恵がそんな事を言い出す。


「や、まぁ確かに強引じゃなかったら結婚もしてなかっただろうし……エヴァン様の事は好きだけど……」


 しかし、エヴァン様は騎士様というか騎士様で毎晩大変……とか言ったら愚痴じゃなく惚気になっちゃうのか?


「アヤメ! こんな所に居たんですね。メグミと何を話してたんですか?」


 そこへエヴァン様がやってきた。

 あれから超スピードで結婚し、4ヶ月経ったけど未だに見慣れぬ美しさ……拝み倒して良いですか?


「彩芽とエヴァン様の出会い話を聞いてましたー」


「あっ、あの時の話ですか……」


 ポッと頬を染めながら恥ずかしそうにするエヴァン様……。その姿だけ見てたらほんと清廉潔白な聖騎士様なんだけども……。


「人のこと言えないけど、彩芽も愛されてるね〜! エヴァン様も彩芽と結婚できて良かったね!」


「はいっ! 私は世界一の幸せ者です!」


 座ってる私の後ろからぎゅうぎゅうと抱きしめるエヴァン様。鎧ではなく騎士服だから大胸筋の感触がする。うん、今日も素敵な筋肉だ。


「少し強引だったかと思いましたが、こちらへ来てすぐ、ディランに頼んだ精査スキャン魔法により、アヤメの気持ちも分かりましたし、あちらの相性も良……」


「エヴァン様っ!! 私に用事があるんですよねっ?!」


 あちらの相性って、何を言い出すんだ! この騎士がっ!!


 そう、エヴァン様はこんな清廉潔白で爽やかで、そっち関係に興味なんてなさそうなのに、夜は凄かったのだ……絶倫も絶倫。

 いや、嫌ではない。相性良いし、凄く気持ち良……って何言ってんの?!


 それは置いといて、まず、推し様の裸とか、私にとっては国宝級の物を見せられ、その後エヴァン様の熱に浮かされた顔を……ごふっっ。

 いかん未だに思い出すだけで、脳内パラダイスで血を吐きそうだ。


「あっ、そうでした! 仕事が終わったのでデートの誘いに来ました」


 すんごく素敵な笑顔でそんな事を言ってくるエヴァン様。

 尊い……その笑顔尊いです……。脳内スチル置き場に永久保存させます。


「なんだか毎日デートしてません?」


 恵がエヴァン様に問いかけた。


「アヤメと室内にいると、ずっと離したくなくなってしまうので……」


 だから何言ってんの! この性騎士がっ!!


 って、そういえば結婚した初めの頃、ご飯とトイレ以外では全く離してくれず、足腰立たなくなるまで攻め続けられ、流石に泣いてしまったことがあったな……。


 あれ以来、エヴァン様の仕事の後はデートと称して街を散歩するようになったんだっけ?


「あー、彩芽大変なんだねぇ」


 恵がニヨニヨしながらこちらを見てくる。

 ってことはディラン様も凄いのか? まぁエヴァン様よりもゴリマッチョで、見るからに性欲強そうではあるけどって、何考えてんだ私!!


 という事で、ゲームの中の印象とは違う、ちゃんと生きてる人間のエヴァン様と結婚し、あちらとこちらを行き来している恵とは違い、家族と相談して完全にこちらの世界で生活をすることになった私。


 4ヶ月が過ぎ、魔法やらこちらの常識にも慣れてきて、美しいエヴァン様は未だに推しではあるけれど、ゲームの登場人物ではなく、段々人間として見れるようになってきた。


 推し様と結婚とか、未だに夢かと思う時もあるけど、こんだけリアルにえっちぃことしまくってたら、流石に現実だと思えるようになった。私の脳内では、エヴァン様のあんなエロい姿なんぞ想像できないからね……っていけない話がそれた。


 とりあえず、なんか良く分からんけど押入れから突然出てきた推し様に押されて結婚したが、毎日美しい推し様の顔を拝めるし、こっちのご飯は美味しいし、何不自由なく過ごしている。

 ……夜はちょっと手加減してもらいたいけど……まぁ、幸せなので良しとしよう。



〜ボーイミーツガール・押入れから推し編 完〜

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボーイミーツガール〜押し入れから推し編〜 川埜榮娜 @sa-ka-na

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画