第2話 推し様が押してくる?
「あっ、すみません、ええと、その事をエヴァン様が知っているという事は、その方々はこちらの世界へ来て、元の世界へ戻れたという事でしょうか? もしそうなら、戻り方があるということですよね?」
「はい、そうなのです。皆戻って来たのですが……」
「何か問題があるんですか?」
エヴァン様は、こちらの様子を窺う様にじっと見つめてきた。
ぎゃー、そんな綺麗な瞳で見つめないでー! 私の中の
いや、邪な何かって何だ? 私の何が浄化されるんだ? やはりエヴァン様は聖騎士だし、神的な神々しさがあるから、私の腐女子な部分とかが浄化されてしまったのか?
聖騎士エヴァン様と、そのライバル的存在の、黒騎士マクベル様が、絡む姿を想像した時の記憶が浄化されてしまったのか?
「こちらの世界で、愛する人を見つけたら戻れたという話だったのです」
「えっ?」
驚きの発言に、どうでもいい腐女子な思考が一瞬で走って逃げたわ。
という事は、エヴァン様も愛する人と出会ったら元の
まぁ、この世界で生活はできないだろうから、元の世界へ戻ることは分かってるし、戻って欲しいとは思うんだけど……エヴァン様が愛する人を見つけちゃうのかー。
推しが幸せになるのは嬉しいんだけど、その相手がこの世界の女性っていうのがモヤッとしてしまうわー。
「という事で、私はすぐにでも戻れるのですが……」
「はい?? えっ? すぐ戻れるんですか? えっ? 何で? 愛する人は???」
私のその発言に、エヴァン様は頬を赤らめてこちらを見つめる。
うおぅっ、何その殺人的可愛い視線っ! 美しいイケメンなのに可愛いとか何なの?! その視線だけで沢山の人が殺せるよ!!
「実は……私もアヤメのことを知っていたのです」
んんん?? 質問の答えになってないけど?
「私の事を知っていた??」
「私の世界では、こちらの世界の人物を映す鏡があるのです。入浴などのプライベートな部分は絶対に映さず、映る人物もランダムなのですが……」
「へー、すごい鏡ですね……それで、そこに私も映されていたって事ですか?」
「そうなのです。それで、私はたまたま映った鏡の中の貴女の姿が忘れられず、何度も鏡の間へ通っていました」
「へー…………んっ? えっ? 私??」
「はい。アヤメ、貴女です。異世界へ行った他の者達も、あの鏡で見た女性に好意を持った者は、その女性の元へ行き、鏡を見ていない者の中には、聖女の予言で異世界へ行き、そこで一目惚れをした者も居るのです」
えっ? えっ? まさかこの流れは……えっ?
慌てふためく私を見て、エヴァン様は少し寂しそうな表情になった。
「やはり、異世界人である私が、アヤメに好意を持つ事は迷惑ですか?」
めっ迷惑どころか、光栄すぎて今死にそうですが。
でも現実感がない。ていうか、本当のホントに? 好意って私のことを好きって事って事だよね? 日本語おかしくなってきた!
「やっ、迷惑ではなくっ、えっ? エヴァン様が私を?? えっ???」
「迷惑ではないんですね?!」
嬉しそうに、ご尊顔からキラキラビームを発しながら私を抱き寄せるエヴァン様。
はうわぁっ! 抱き寄せられとぅわぁぁぁっ?! うぉぉぉっエヴァン様いい香りがするっ! 鎧って臭かったりしないんだぁ……。
って、はっ?! 私、今、エヴァン様の胸の中に居るんだよね?!
んんっ? 鎧姿でぎゅうぎゅう抱きしめられると硬い鎧が痛いし苦しいぞ?! マッチョは力加減を知らんのか?
「あっ、あのっ、エヴァン様くるしっ……」
「!! すみませんっ、つい」
力を緩めて、優しく抱きしめ直すエヴァン様……。
力が緩まったので、ふと見上げると、美し過ぎるエヴァン様のご尊顔が見えた。
うっわぁ……。
下から見ても綺麗なお顔って何なの? イラストか? これは美麗なイラストか? 毛穴とかどこ行った?
ほわーっと
うぶぉわっ! キラキラ美しすぎて、目が潰れるっっ!
「アヤメが私の腕の中に……。可愛い……可愛いです」
そう呟いて、私のおでこにキスを落とすエヴァン様。
おっ、おでこにチューをされたっ!
ぐふぉっ!(致命傷)
私は美しすぎる推しの腕の中で死んでしまう運命なのか。尊死だ尊死。
「アヤメ……」
おでこにキスをした後、うっとりした表情で私を見つめ続けるエヴァン様。
ぐはぁっ! 駄目だ! こっ、このままでは本当に死んでしまう。どうしよう、どうしたら、どうする?
「あっ、あのっ! ちょっと落ち着いてくださいっ!(私もなっ!)こんな廊下では何ですし、とりあえず部屋へ……」
はっ! 部屋とか言ったけど、私の部屋はエヴァン様の推しグッズでてんこ盛りだった!
あんなの見られたら恥ずか死ぬ!!
かといってリビング? 今家族は出かけてるとはいえ、いつ帰って来るか分からん状態……あっそうそう、私普通に実家暮らしです。今日は休日で、父と母と妹はそれぞれ出かけてます。
……てか既に16時……あかんやんもーすぐ帰ってくるやん。私の部屋しか無いやん。(混乱しすぎて何故か関西弁)
いや、でもあれは2次元、エヴァン様って気付かれないかもしれない?!
と思いながら眼前のエヴァン様の鎧を見る。
……推しグッズ達、鎧のデザインそのまんまじゃんっ! バレバレじゃん!
「アヤメの部屋に入れてもらえるのですか!」
とっても嬉しそうなエヴァン様、ええと、この人をあの部屋に入れるのか?
あっ! そっか、隠せば良いのか!
「あっ、えーと、ちょっと散らかってるので片付けてからでも良いですか?」
押し入れも私の部屋も2階にあるので、少しここで待っててもらおう。
「はい、分かりました」
エヴァン様の返事を聞くなり、私は速攻で部屋へ戻った。
ふぅ、何とかなりそうだ。
しかし室内を見ると、ソファーやベッドが大量のエヴァン様グッズに埋もれている……。
……あれ? これ、隠せる量じゃなくない?
しばし呆然とする。
とっ、とりあえず大きいものは押入れに隠して、小さいものは一箇所にまとめて上から掛け布団かけたらどうにかならんか?!
……無理だった。
等身大パネルや、等身大抱き枕達の主張が凄い。
ああああああっっ!! どうしようっ?!
一人で声にならない声を上げながら、部屋を右往左往していたら押入れにぶつかった。
ドサドサドサーッ!!!
押入れに詰め込んだ推しグッズが、雪崩の如く飛び出してきた。
「アヤメ?! 大丈夫ですかっ?!?!」
音に反応して、慌てて飛び込んできたエヴァン様の視線が、推しグッズに埋もれた私を捉えてから、その周りへ逸れる。
あああああっ! 見られてしまったぁっ!!
「これは……?」
「かっ、片付けようとしてたら、ちっ、散らかしてしまいました」
これがエヴァン様だとバレたかな? いや、2次元だしバレてないよね?!
「この鎧は……」
やっぱりそこ気付いたか……。
「この髪の色や瞳の色、この鎧のデザイン……もしかして」
あわあわあわあわ。
「私、なのですか?」
はい、バレバレですよね!
「そういえば、他の者たちもゲームのキャラとして知られていたと言っていました。アヤメが知っている私はこんな感じだったんですね」
「あっ、そっか、他の方々が戻ってるということはゲームの事も知ってるんですよね……」
「そうなのですが、どうしてこんなに私の物があるのでしょう?」
少し嬉しそうに聞いてくるエヴァン様。
これ、絶対わかって聞いてるよね? 好意があると私に言わせたいのか? でも、推しだから恋愛とは違うよ? 多分。
「エヴァン様は私の推しだからです」
「推し??」
何を言われたのかわからない様子で、聞き返してくるエヴァン様。
「推しとは、好きな人や物、応援したい人や物、人に勧めたいほど気に入っている人や物のことを指します」
「応援? 人に勧めたい??」
戸惑う様子のエヴァン様。私が普通に好きだと思ってたんだろうな。
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