第41話 次の旅路に、想いを馳せて
屍竜・ファフニールとの激闘を終えた後のこと。
俺はプナリアの薬草を持ち帰り、ティアナの病室を訪れていた。
部屋の中には俺やメロの他、アルシード王やセタスさんもいて、事の成り行きを心配そうに見守っている。
「ティアナ、これを」
「ぅ……」
俺がプナリアの薬草を
どうか効いてくれと、俺も祈りを込めながらティアナの顔を見つめる。
その祈りが届いたのだろうか。
間もなくして、ティアナがベッドの上に体を起こした。
「り、リヒト様……」
その様子を見て皆が一様に安堵の色を浮かべた。
それまでは青白かったティアナの頬に、赤みがさしていたのだ。
「ティアナ、どうだい?」
「は、はい。体を縛られていたような感覚が、消えました。すごく、体が軽くなりました……!」
「そうか。良かった……」
ティアナはそれまでの様子とは打って変わって、弾けるような笑みを浮かべている。
これなら大丈夫だ。
一気に弛緩した空気に変わり、その部屋の中にいた皆が笑顔だった。
と、静観していたアルシード王が俺の肩に手を置いて声をかけてくる。
「ったく、本当によくやってくれたなリヒトよ。ほんと、勇者様々だぜ」
「いえ、今までずっとティアナには助けられてきましたから。それに、今の俺は勇者を引退した身ですよ」
「ハッハッハ。そういえばそうだったな。だが、今回のことを解決できたのは紛れもなくお前のおかげなんだ。だから、俺は一国の王としても、個人としてもお前に礼を言うよ」
「アルシード王……」
俺の背中をバンバンと叩いて、アルシード王は満面の笑みを浮かべている。
「ふふん。今回、メロもちょーがんばった」
「ああ。リヒトから聞いてるぜ。おチビちゃんも大活躍だったってな。本当によくやってくれたよ」
「やった、おーさまにほめられた」
そんな風にメロとアルシード王が言葉を交わし、セタスさんからもこちらが恐縮してしまうようなお礼を言われた。
「リヒト様、メロちゃん――」
ふと、ベッドの上で体を起こしていたティアナから声をかけられる。
ティアナは胸の前で両手を組んでいて、そこに夕陽が差していた。
「私……、何とお礼を申し上げたらいいか……。それでも、これだけは言わせてください。本当に……、本当にありがとうございました」
ティアナの青い瞳には涙が浮かんでいて、それが陽の光に混ざって輝いている。
それは神々しく、とても印象的な光景だった。
「ティアナ」
「はい」
「俺からも、改めてお礼を言わせてほしい。今の俺があるのは君のおかげだ。俺の方こそ、本当にありがとう」
「あ……」
嘘偽りない、心からの言葉。
それをティアナには伝えたかった。
ティアナは少しだけ
そして俺の方に向けた顔は、笑顔だった。
「リヒト様」
「ん?」
「あの……。ここを出る前に約束したこと、覚えていらっしゃいますか?」
「……ああ。もちろん」
俺もまた笑みを浮かべ、ティアナに言葉をかける。
「約束通り、俺がしてきた旅の話をするよ。たくさん……、本当にたくさん話したいことがあるんだ――」
***
「あるじー! あれなにあれなに!」
「ああ。あれは
王都ヴァイゼルを訪れてから数日が経ち。
俺とメロは城下町を二人で歩いていた。
「あるじあるじ。じゃああれはー?」
「あれは冒険者協会だな。魔物討伐とか色んな依頼を請け負いながら生計を立てる人が集まる場所だ」
その日はとても良い天気で、街を観光して回るにはちょうどいい陽気だった。
俺はメロから矢継ぎ早に質問をぶつけられながら大通りを歩いていく。
王都に来た当初は色々と慌ただしかったが、今ではこうして街を見て回る暇ができていた。
そうして街を巡っていると、不意にメロが笑顔を浮かべる。
「でも、ほんとに良かったね。せーじょ様、元気になって」
「ああ、そうだな。今では教会の方にも顔を出せるようになったらしいぞ」
「おー、それは何より。メロ、またせーじょ様とお話したいなー」
「ははは。ティアナも話したがってたよ。それに、まだまだ旅の話を聞きたいって言ってたしな」
あれから、ティアナはプナリアの薬草の効果でみるみるうちに快復していった。
聖女としての力もまた働くようになったらしく、今ではまた毎日祈りを捧げているようだ。
まったく頑張り屋な聖女様だなと感心してしまう。
(そういえばティアナ、自分も旅をしてみたいとか言ってたな。旅をしながらでも祈りは捧げられるから問題ないって言ってたが……。あれ、本気なんだろうか)
俺はティアナと話した時の様子を思い出しながら思案する。
魔王討伐の旅の時はさすがに断ったが、次また一緒に行きたいと言われたらどう答えたものかと、俺はそんなことを考えながら遠くに見える教会に目をやっていた。
「あるじ、そういえば王都にはもう少しいるんだよね?」
「ああ、そうだな。せっかくだからまだ滞在しようかなと。アルシード王もゆっくりしていけって言ってくれてるし」
「ふふん。なら王都のおいしー料理もまだまだ堪能できるってことだね」
「ははは、そうなるな」
数日が経てば、俺とメロはまた一緒に旅へと出る予定だ。
他の大陸にも渡ってみたいし、以前学者のマリルさんが話してくれた外側の世界のこともある。
もう少し経ったら、まずはマリルさんの元を訪れて、話を聞いてみたい。
そこまで考えて、我ながらすっかり旅の魅力に取り憑かれたものだと苦笑した。
(まだまだ見てみたい景色もあるし、食べてみたい料理も、会ってみたい人もいる。色んな場所で、色んな体験をしてみたい。こんな風に考えるだけでワクワクしてくるんだから、本当に旅というのは素晴らしいな)
「あ! あるじ、あのお店、おいしそー! 入ってみようよ!」
「はいはい」
メロに服の袖を掴まれ、グイグイと引っ張られる。
さて、今日はどんな体験が待っているかなと。
そんな期待感を胸に、俺はまた歩き出すのだった――。
《第1部、終》
==========
●読者の皆様へ作者からの大切なお願い●
ここまでお読みいただきありがとうございます!
さて、本作はここで第1部が終了となります。
が……!
本作はとても思い入れが強い作品で、まだまだ続きを書いていけたらなと思っています。
第1部のアフターエピソードもいくつか更新したいと思っておりますので、引き続き本作をお楽しみいただければと思います。
また、本作は第9回カクヨムコンに参加しています!
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引退勇者の異世界観光スローライフ~ラスボス倒して暇になったのでクリア後の異世界を満喫しようと思います。各地を旅してたら世界を救った勇者だと身バレして大騒ぎに。俺はのんびり観光がしたいだけなのに! 天池のぞむ @amaikenozomu
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