最終話 永遠の誓い
「さぁ、続きまして……新婦様の入場です!」
ドクンと、心臓が強く波打つ。
ここにいない愛する人。わかりきっているのに、緊張に手に汗握る。
そして、扉が開かれ――。
「エリー……」
純白の衣装に身を包んだエリーが、父親と共に姿を現した。
「綺麗だ……」
思わず口から零れてしまった。
しかし誰もそれには気を留めず、会場のみんなも呆然とエリーを見つめている。
1歩、また1歩とゆっくり歩いてくるエリー。
その顔はいつもと同じ……いや、いつも以上に素敵な笑顔だった。
「アレク……」
「エリー!」
名前を呼ばれ、思わず抱き上げてしまった。
「きゃぁ! もう、アレクったら! たくさん歩く練習しましたのに!」
「ごめんごめん! つい……可愛すぎて」
頬を軽く膨らませるエリー。そんな顔も愛しい。
俺は……こんなに幸せでいいのだろうか……?
ただ自分勝手に過ごしてきて……好きな人もたくさん作って……それで……!
「アレク、愛していますわ」
「――っ、俺もだよ」
いいじゃないか、今はただ愛しい人たちのことだけを考えれば。
「コホン、では続いて見届け人である神の使徒様の御入場です!」
ヨミが場を取りなしつつ、式を進める。
神の使徒? 誰だろうか。オルレアンは席にいたし……大司教もヨミの横にいるし。
「うむ! おめでとう! アレキサンダーとその嫁よ!」
「……」
いやドゴーグやないかい!
使徒どころか神そのものやないかい! 何が神の仕事をするだよ! 他にもっと神らしいことあるだろうが!
「ふははっ! 驚いて声も出ないか! いい気味だ!」
「……」
いい気味ってどういうことだコラァッ!!!
「まぁ、今は空気を読むがいい。コホン、ではアレキサンダーよ! 貴様は妻となるそこの娘を永遠に愛することを誓うか?」
「……誓う」
空気を読めとかこいつに言われたくない。言われたくないが……渋々進行に従う。
「うむ! では――」
「ち、誓いますわ!」
早い! 早いよエリー! 食い気味どころかまだ何も言ってないよ!
見るとエリーがぷるぷる震えているのがわかる。緊張してるのかしら。
そういえば、初めて会った時も緊張からか上手く喋れてなかったなぁ~……。
思えばあの日から随分長いこと一緒にいたね……ダメだ、泣きそう。
「うむ! 実にめでたい! 神の使徒である我がしかと見届けたぞ!」
今ので許されたの!? そしてお前は使徒じゃなくて神そのものだろうが!
とか考えていたらドゴーグの頭上の空間が歪む!
「……私はこの世界の創造神、ゴルディックである」
「私はダァ……アレキサンダーさんの女神です」
……えぇ……。
急に何ですか……? 突然過ぎて……えぇ……?
「「「……」」」
会場もドン引いている。
もちろん、俺も。
「創造神の名において宣言する! アレキサンダーとエレーヌ嬢を伴侶と認める!」
「共々に励み、支え合い、永遠の発展を願います」
それっぽいことを言ってるけど、1人はうっかり創造神、もう1人はぽわぽわ女神だ。
「神が……神までもが我が息子を……! うぉぉぉ~ん!」
「殿下っ! 殿下ぁぁぁっ! うわぁあああ! ナイツ! 来てくれナイツぅぅぅ!!!」
親父は大号泣。デールは最早意味が分からん。
「……? ……??」
「……! ……!!」
ゼアが『俺も行った方がいいの?』見たいな顔をして何度も腰を浮かせてはロべニスに止められている。
「マジかよ……」
「神様って……本物!? ヤバくねっ!?」
「やっぱすげぇよ! 兄貴ーっ!」
会場ももう大騒ぎである。
どうやって収拾を付けるのか。もう無理くね?
「静粛に願います! まだこの後に何人もの新婦が控えているんですから!」
「え?」
どういうことかと思い、メイちゃんたちを見るが……メイちゃんがいない?
「お次はメイさんの番ですわ!」
……もしかして、1人1人やるってこと……?
「さぁ! 続きまして2人目の新婦様の入場です!」
そして……孤児院の院長に連れられたメイちゃんが入場してくる。
「ふふ、思ってたのとは違いますが……これも楽しくて素敵ですね」
「……そうね」
色んな意味で忘れられない日となった今日という日。
結婚式だと言うのに……途中から宴会のような様相。とどめは恐らく、アラアラの時に感極まった『おうまさん』たちのせいだろう。
モーリーたち冒険者組はどこからか取り出した酒を呷り、我慢しきれなくなったゼアが光り輝き、デールがなぜか衣装直しと言いながらナイツを次々と身に纏う。
リョーゼン王たちは自身の娘の晴れ舞台だと言うのに、なぜか運ばれてきた料理に夢中になっていた。
見届け人を変われと言いだすゴルディック、いつの間にか花嫁衣装に着替えていたポワンポワン。それに隠れてィユニスを喚び出し、同じく着替えさせる。着替えを用意していたのはクワトだ。もちろん、クワト本人も着替えている。
親父は相変わらず泣いているし、パーシィとギルは顔を見合って苦笑い。
セイスすら謎の踊りを踊っている。他のトロイアメンバーも給仕役やらなんやらしながら騒いでる。
唯一騒いでいないのはトロイアの指導役であるミネフだけだ。いや、彼女は魂が抜け出ているだけかも……?
「アレク! みんな楽しそうですわね!」
エリーの言う通り……誰もかれもがみんな、心の底から楽しそうにしている。
「ふふ。坊ちゃま、私の幸せの記憶がまた増えました」
「アレクちゃま~! まるで……まるで夢みたい~!」
「アレク! 私の事忘れてないでしょうね!」
「アレク様ー! やっぱり私が一番可愛いですか!? 可愛いですよね! 可愛いって言ってくださーいーっ!」
「主様。愛してるのじゃ!」
エリー、メイ、アラアラ、アンジェ、ミントにリオ……。
少し離れたところにいるクネクネやヒルデ、サリー、クワト、ポワン、ィユニス……。
妻たちだけじゃない、ここにいるみんなやガーベラさんたちも……。
「そうだね……みんな笑顔だ。幸せいっぱいの」
この笑顔を、幸せを……守っていきたい。妻たちや……全ての大切な人たちを……永遠に!
そして……温かな光が俺を包み込んだのだった。
まぁまぁクズの英雄譚~今世こそ俺が搾取する側に!~ 公公うさぎ @HamuUsa
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