第191話 セイス一世一代の恩返し

「セイスの……反乱!?」

 突然もたらされた予想外の知らせに思考が追いつかない。


「はい! セイスさんが……メイ様やエリー様たちを篭絡し……」

 信じられないその言葉に、目の前が捻じれて視界が歪む。


「そんな……篭絡って、まさかっ! ありえない!」

「かなり前からセイスさんは秘密裏に動いていたようです。奥方様たちに……何か思い当たることはありませんか!?」


 思い当たること……。

 そう言われ、先のエリーとサリーさんのことを思い浮かべる。


 何やら急いで……まるで逃げるように……!


「……どうやらあるようですね」

「――っ!」

 口を開こうとするが……パクパクと動かすので精一杯、声が……出ない……。


「……可哀そうなアレク様。このまま私と一緒に――」

「ゴホン。それで、セイスさんは何が目的ですか?」

 俺に代わってアンジェが話を進めてくれる。


「目的はわかりませんが……明朝、王都外れの教会にアレク様1人で来るように、とのことでした」

「1人で!? そんなことできる訳が……!」

「さもなければ、奥方様の命の保証はないとのこと」

「……教会で、一体何が……?」

「……わかりません。ですが、恐らく……アレク様に見せつけるためでしょう」

 ……見せつける?


「アレク様の奥方様たちと……セイスさんの結婚式を……」

「――……」


 ……そんな……みんな……。


「とにかく、明日。勝負は明日です! それまでご自宅に戻り、決戦の準備をしましょう!」

「……あぁ」


 もっとも……もっとも恐れていたことが起きてしまった。


 セイスは……俺は、セイスにだけは絶対に勝てないだろうと前々から思っていた。

 奴の全てを見通したような思考。状況把握、策略……勝てない……勝てるビジョンが浮かばない。


 俺は……俺は……!




 ◆◇◆◇




「この格好は……?」


 人生で最も長い夜を過ごし……そして翌朝、クワトに用意された服を着る。

 この格好は……昨日のデール君と同じもの……?


「……セイスさんからの指示です。婚姻を祝う服装で来い、と……」

「……そうか」

 いよいよ……始まってしまうんだな……。


「……アンジェは?」

「……」

 黙って首を振るクワト。


 ……そう、か。アンジェも……。




「行ってくる」

「……はい」

 クワトの頬を、一筋の涙が伝う。


 ◆◇◆◇


 そして指定された時刻、1人教会の前に立つ。




 これが……これから俺は……!




 そして、勢いよく教会の扉を開け放つ!




「新郎さまのご入場です!」

 その瞬間、朗らかな女性の……ヨミの声が大きく響く!


「兄さま! 御結婚おめでとうございます!」

 パーシィが、我が愛する弟がかつてのような笑顔で祝ってくれる。


「アレクよ! 我は……我はこの日をどんなに待ち望んでいたかっ!」

「ふっ! さすが兄上、似合っているぞ!」

 親父が号泣しながら、ギルが偉そうに祝福してくれる。


「殿下! あぁ……殿下ぁっ!!!」

「デールったら……お兄さま、かっこいいですよ!」

 デール君が大号泣し、シアが苦笑いしながら……。


「アレク君、素敵じゃないか! さすが我が義息!」

「おう! 似合ってるぜっ!」

「ふふ、さすがはアンジェが選んだだけのことはありますね!」

 リョーゼン王とジョー、そしてクラットが。


「うぅ……! アレク殿……かっこいいですぞ!」

「ん~! アレきゅん! や~っぱりかっこいい!」

「アレクさん素敵よ! やっぱり私にも抱かせて!」

 小次郎、カオルコ、オルレアンが。


「おいおい! あれがアレクだって!?」

「「「似合わねぇー!!!」」」

「「「兄貴ー! 幸せになってくれよなーっ!」」」

「「アレクさん、おめでとう!」」

 モーリーたち『質実剛健』やリョーゼンの舎弟、それとレーズンとビアが。


「アレク殿、祝福するぞ!」

「アレクさん! お幸せに!」

 ゼアとロべニスが。


「我が主よ、三千世界を遍く照らす慈悲深き主よ」

「あなたに師事できたこと、我ら最高の誉」

「この日この時の栄光が永遠に続くよう、我ら一層励みます」

 ブッディ、ヤハ、シヴが。


「我が永遠の主よ、此度は――」

「良い。ありがとう」

 憎き……憎い演出を手掛けたであろうセイスが跪いているのを手で制す。

 全部バレバレだよ! それに俺が嫁さん達を疑う訳ないだろ!


 そして――。


「アレク様ー! 素敵です! かっこいいですー! さすが私の……もごもが」

「ちょっと手を舐めないで! アレク、素敵よ!」

 あれ? ミントとアンジェ? 

 てっきり花嫁側かと思っていたが、普通に席の一番前に座っている。


「アレクちゃま! アレクちゃま~!」

「坊ちゃま……永遠に一緒ですよ」

 アラアラとメイちゃんも……。




「さぁ、続きまして……新婦様の入場です!」


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