第2話
あたしはお弁当を食べ終えた。
空になったお弁当箱の蓋をして、再びナフキンで包む。もらったお茶の蓋も開けてぐいっと呷る。中身は緑茶で食後には丁度良い。半分くらいは飲んだろうか。
蓋を閉めてロッカー室に行く。鍵を開けて、バッグを出した。チャックを開けて包んだお弁当箱を仕舞う。次に、ボトルホルダーを出した。それにお茶のペットボトルを入れる。そうしたら、バッグの横に置く。バッグも閉めたら、ロッカーに入れた。鍵も閉めて出たのだった。
お昼休みが終わると、浦和先輩が既に店舗にいた。
「水野さん、もう食事は済んだ?」
「はい、食べ終わりました」
「じゃあ、俺がレジをやるから。君は掃除を頼めるかな?」
「分かりました」
頷くと、モップなどを取りに向かう。バッグヤードに行ったら、店長はいなかった。仕方なく、モップなどがある部屋に行った。
店舗内の掃除を黙々とやる。その間にも、ポツポツとお客さんが来店してきた。お昼ご飯を買う人やコーヒーだけの人など、色々なお客さんがいる。あたしはそれをなんとはなしに見つめた。モップで床を磨きつつ、浦和先輩の指示を待つ。レジが一段落したらしく、先輩がこちらにやって来た。
「……水野さん、もういいよ。今、二時頃だから、店長も帰って来るだろうしな」
「はい」
「バッグヤードに行ってみなよ」
浦和先輩がそう言って来たのであたしはバッグヤードに再び、行った。
先輩の言葉通りに店長が戻って来ていた。
「あ、水野ちゃん」
「店長、先輩に言われたので。来たんですけど」
「うん、ちょっとね。水野ちゃん、早いけど。もう仕事は終わりにしていいよ」
「分かりました、では。お疲れ様でした」
「お疲れさん、気をつけてね」
頷くと、ロッカー室に向かった。
制服を脱いで私服に着替える。ヘアゴムやピンを外して、バッグから出した小さなポーチに仕舞う。上にジャンパーやマフラーを身に付けたら、支度は完了だ。ショルダーバッグやらを出して持った。最後に鍵を閉める。普段よりは早めにコンビニを出たのだった。
あたしは帰り道に、浦和先輩にもらったお茶のお礼をどうしようかと考えていた。とりあえず、先輩はお酒を飲むのが好きだしな。おツマミを何種類か買って渡そうと思い立った。よし、明日にでもそうしようと決めたのだった。
帰宅すると、父さんはいなかった。母さんに訊いたら、「グラウンドゴルフに行ったわよ」との返答だった。
あたしが早めに帰って来たからか、驚いていたが。
「絵梨花、お昼は食べたの?」
「うん、母さんが持たせてくれたお弁当でね」
「そうだったわ、じゃあ。おやつでもどう?」
「やった、何があるの?」
「たい焼きよ、後ね。人形焼きもあるから、一緒に食べましょ」
あたしは頷いた。母さんはお茶を淹れると言ってくれる。その間に、あたしはメイクを落として普段着に着替えに行く。手も洗った。手早くしたら、キッチンに戻った。たい焼きや人形焼きの良い匂いが鼻腔に入る。
「絵梨花、お茶を淹れたわよ」
「ありがとう」
お礼を言って、椅子に腰掛けた。お茶が置いてある。手に取って一口含んだ。お皿にたい焼きや人形焼きが山盛りにあった。
「……母さん、これ。いっぱいあるけど」
「ああ、これね。お隣の磯村さんがくれたのよ」
「ふうん、磯村さんも太っ腹だね」
あたしは言いながら、たい焼きを一匹手に取った。
「美味しい」
「でしょ、確か。磯村さんのお友達がたい焼きや人形焼きなんかのお店をやっているそうでね。安くしてくれたから、たくさん買い過ぎたとか言ってたわ」
母さんが言うには、いわゆるお裾分けらしい。それにしても、たくさんある。あたしは母さんと二人で食べながら、会話に花を咲かせた。
一時間近く経った時には半分は食べていた。それでもまだ、合計して七個は残っている。
「残った分は父さんに食べてもらうわ、絵梨花もこれ以上は入らないでしょ」
「うん、もういいよ」
「分かった、冷蔵庫にでも入れておくわ」
母さんは頷いて、冷蔵庫に向かう。あたしは二杯目のお茶を啜った。
夜になり、父さんが帰って来た。母さんやあたしが出迎える。
「お帰りなさい、父さん。今日は磯村さんから、たくさんたい焼きや人形焼きをもらったのよ。まだ、余っているから。父さんも食べてくれない?」
「え、そんなにあるのか?」
「そうなのよ、まだ七個もあってね」
「仕方ないな、今日の夕飯はたい焼きか」
「ごめんなさいねえ」
母さんが謝るも、父さんはしかめっ面だ。仕方ないとは思う。あたしも食べようと秘かに決めたのだった。
あなたの夢 入江 涼子 @irie05
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