第4話
後の事はもうご存じでしょう。
勇太君は下校中の小学生を攫おうとして、あっけなく取り押さえられました。
子供なら自分でも捕獲できるとでも思ったのでしょうね。浅はかです。淳一さんはもっとよく考えて、うまくやっていました。
取り調べの段階で、田所家の台所の地下収納に隠されていた夥しい量の人骨と、腐乱した淳一さんの死体が発見されました。
刑事さん達も驚いた事でしょう。
世間は大騒ぎでしたね。
令和のシリアルキラーだ、食人鬼だ、なんていって。
でもね、刑事さん。
私が話した事が全ての真相です。
勇太君は、人を殺していません。
彼は、父親の淳一さんの遺体の解体こそやりましたか、次の段階では未遂に終わりました。
子供を捕まえる事すら、ままならなかったのです。
……これは名誉に関わる問題です。
是非、私の話を証言として採用してもらいたい。その為に私は罪に問われる事を承知でここに出頭してきたのですから。
……え?
いやいや、私に勇太君を庇うような気持ちなんて毛頭ありませんよ。名誉とは、そういう意味で申し上げた言葉ではございません。
彼は本当に何もしてこなかったんです。住む家がありながら、面倒を見てくれる親がいながら、働きもせず、家事もせずに毎日テレビゲーム三昧。
ただ怠惰を貪る日々を送ってきました。
そんな勇太君には、与えられるべき評価なんて何一つ無いはずなんですよ。
侮蔑も憎悪も賞賛も彼にはもったいない。
あれだけの大量殺人を行い、汗を流して死体をバラし、その上美味しく調理したのは、全て淳一さんなんです。
それが善行であれ、悪行であれ、評価されるべきなのは、事をなした本人でなければならないと私は思います。
彼はからっぽだ。淳一さんとも私とも違う。何もないんですよ、彼には。
だから、お願いします。
勇太君の裁判で、私を証言台に立たせてください。
それが、このしがない泥棒に出来る、淳一さんへの最後の恩返しなのですから。
しがない泥棒 エビハラ @ebiebiharahara
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