第5話


『トリックオアトリート!』

 街も仮装をしたらしい。賑やかさと不気味な世界は、まるで異世界に来たみたいだ。僕はまるで異界の人のような普段着で、仮装した人々の隙間を、縫うように歩く。

『ヴォー、ヴォー』

 ゾンビが何かよこせと言わんばかりに、僕の体に纏わりつく。ちょっとだけ興味が膨らんで、手に持っていた買ったばかりのレモンティーを、ゾンビにポイっと投げてみた。

「お! あざーっす」

 ゾンビが話して、にっこり笑った。

 太陽からは、橋が降りてこないけれど、あたたかい熱が降り注ぐ。ジャックオーランタンが暑そうにしてる。あぁ、あっちのジャックオーランタンは冷却シートを貼ってるや。へーんなの。

 書い直したレモンティーの蓋を、ぐいっとひねった。

 口をつける前に、まずは香りを。肺いっぱいに、雨の香りを。ごくごくと、雨を味わう。曖昧な世界に、僕は叫ぶ。


「トリックオアレモンティー!」


 おーい、今はかくれんぼしてる、お月さま!

 来年もレモンティーを降らせて、アキをにこにこ公園に導いてくれなきゃ、イタズラしちゃうぞ!


 ねぇ、お月さま。

 どうか……どうか、お願いします。

 来年も、アキに会わせてください――。




〈了〉



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トリックオアレモンティー 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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