カクヨムコン中に大泣きして寝込んだ話…

加藤伊織

私のストレッサー

 私は昔から、「決まった場所」がないとダメだった。

 例えばアルバイト先で、決まった自分の席がなく、空いている席をその時その時に使わされたりするのが、物凄くストレスになる人間だった。


 そして、パソコン前は「私の場所」だ。

 我が家は大人が3人いるが、全員デスクトップパソコンを持っている。一時期は全員がバラバラに暮らしていたのが寄り集まったので、仕方がないにしろちょっと珍しいかもしれない。

 なにせ、70歳を越えている母まで、デスクトップパソコン+タブレット+スマホという体制なのだ。私と夫に至っては、それにプラスしてノートパソコンも持っている。私のはスペックが低くてタイピング速度に付いて来られないので、今は使っていないが。


 家を建てるときに2階の階段横に3畳の細長く半端なスペースができてしまったので、そこはドアを付けて仕事部屋(パソコン部屋)にすることにした。夫が画像関係の仕事をしているので、壁紙に反射を抑えるための黒い壁紙(天井用)を使ったりしてあるマニアックな部屋だ。

 IKEAで見つけた2メートルの長机を置いて、右半分は夫、左半分は私と分けて使っている。

 ここが完全に「私の場所」なのは、横に置いたメタルラックに積んである資料や、壁に貼ってある圧切長谷部&日光一文字の実寸大ポスターでも一目瞭然だと思う。


 ところが、今年の夏から娘が私のパソコンをよく使うようになった。

 夫のパソコンは仕事用だし、母のパソコンは2万円しない「でっかい画面でネットサーフィンするため」だけの低スペックだ。

 自然、娘が私のパソコンを使うことになるのは仕方なかった。


 私のパソコンもスペックは高いわけではない。「小説を書くのに不都合ないくらい動けばいい」と思っていたので、確か買い換えた2年ほど前に4万円台だった。

 ブラウザゲームくらいしかしないので、グラフィックボードはとても貧弱、メモリもそんなに強くない。


 そのパソコンで娘がやり始めたのは、動画作成だった。私の貧弱なパソコンには荷が重い……。



 夏休みから始まった娘の動画作成は、専用ソフトを学割で買ったりして、どんどん上達していった。つまり、私のパソコンはどんどん占拠されるようになっていった。


 ここが私のストレスの始まり。私は2年近く小説を書くことを休んでしまったが、7月終わりから連載を始めていて、9月からは毎日2本の小説をアップするようになっていた。

 時間さえあれば、いくらでも書ける。私は割とそういうタイプの人間で、書くときには2タイトル計6話くらいを1日に書いたりもした。大体文字数で言うと14000字くらい。午後から書き始めて寝るまでの間に、そのくらい書く。


 典型的な「手数で稼ぐ」タイプでもあり、「更新頻度の高さでPVを維持し続ける」、逆に言えば「更新をサボるとガタッと目に見えてPVが落ちる」底辺作家である。

 コロナでは休まざるを得なかったが、書ける限りは書く。そして毎日更新をする。それは強迫観念にも近い物であり、できてしまうが故に逃れられない物になっていた。


 そんな私が、書くネタはある、時間(と体力)があればいくらでも書けるぜ

! という状態なのに、物理的にパソコンの前にいられないのは、かなりストレスになった。

 とどめを刺したのが、12月に入ってから3作目を書き出したせいで急激に悪化した眼精疲労だ。頭痛、吐き気、首や目の奥の痛みが酷く、「さすがに1日3作は無理だったか……? いや、書くときは6話書いてたじゃん?」と自分で首を傾げつつ目を温めて休憩を挟みながらでないと、パソコンに向かっていられなくなった。


 どうしよう。

 このままのペースで書くのは(目が)辛い。

 1作はもう終盤だから、これを終わらせてしまえば格段に楽になる。年内に終わらせたい……けど無理だ。

 そもそも、書かないと終わらないのに物理的に書けない。


 眼精疲労と、娘のパソコン占拠によって……。


 眼精疲労に関しては、キューピー■ーワiプラスを飲んだり、ブルーベリーサプリを飲んだり、肩を温めるレンジでゆ○ぽんを使ったりして大分改善された。

 けれど、パソコンに関しては一切解決しておらず、また悪いタイミングで娘が買ったPC用ゲームが、私のパソコンのスペックではまともに動作しないということがわかってしまった。

 卒業文集を書くときにプロットの立て方を教えて実地で作文指導をしたら、書くことが楽しいと娘は気づいたようで、カクヨムに投稿しようかなとか言い始めていて、更にパソコンを奪われる時間が延びることも目に見えてきた。

 状況は、悪くなるばかりだった。


「ママ、一緒にゲームできる?」


 もうすぐ中学生というこどもがいて、そう言ってもらえるのは喜ばしいことだと思う。そこに共通の趣味がなく、会話がなくなったりするよりは、私と娘には「ゲーム」という共通項がある。

 問題は、そのゲームのジャンルが違うことであって……。


 娘が一緒にやりたいと言ったゲームに、私は興味がなかった。まともに動かないと知ったら、余計やる気はなかった。何が楽しくて、まともに動かないストレスの掛かるばかりのゲームをせにゃならんのだ。

 本当ならば、誘われても「ううん、やらない」で済んだのかもしれない。事実、私の横にいて一部始終を見ていた夫は「断ってそれで終わりでいいのに」と首を傾げていた。

 ところが、その時の私は積もり積もったもののせいでぷつっと何かが切れてしまった。


 配信する動画を撮りたいからTRPG一緒にやろうと言われ、2日断って3日目にやったら30分のはずのシナリオに2時間以上掛かったこと。

 その上、そのリプレイ動画に使うために音声などの別取りが必要になって、それに時間を食われたこと。

 クトゥルフTRPGにハマった娘のために、TRPG経験者の私がシナリオを作ることになったこと。それをせっつかれていること。そもそも私はまだクトゥルフTRPGはルールブックを読めていないこと。


 書きたいときに書くことができず、ストックもできない状態で眼精疲労でぶっ倒れてしまったこと……。


 それらが、突然飽和状態になって、私は大泣きしてしまった。


「たったひとりの娘が一緒にゲームしようと言ってるのに、それもしてあげられない」


 そのことで、わんわん泣いて、寝込んで、結局2日ほど行動不能になっていた。

 当然小説も書けなかった。本末転倒である。



 事態が好転したのは、2日目の昼間。


 ちょっと前から「娘が自分用パソコンを買えばいいのでは」と思っていたのだが、ゲーム実況もしたい、なんなら将来的にVtuber的な事もしたいという娘が必要とするゲーミングPCは高い。娘が赤ちゃんの時から、着服したりせずに娘の口座に貯めてきたお年玉を全部注ぎ込んでなんとか、という値段だ。いきなりそこに全額投入するのはちょっとどうなのか。キャプチャーボードも欲しいって言ってるし。


 そこを悩んでいたところに、夫に遅いボーナスが出た。私と母にもボーナスのお裾分けが来た。


 私と母とで3万円支援するから、もうパソコン買え! ママは今まで自分のパソコン使えないのがすっごいストレスだったんだ!

 しかもあんたの買おうとしてるパソコンは、学割使ってもママのパソコンの3倍の値段がするんだ! スペックは比較にならん!


 ……という説得と検討を半日で済ませ、さきほど代金を振り込んできたところです!!


 書きたくて、書くネタがあって、能力的にも書けるのに物理的に書けない。

 それはそれは、酷いストレスだった。それが原因で書けなくなるほどの。


 とりあえず、クリスマスには娘用のパソコンが届く予定で、私は自分を雁字搦めにしていたストレスからやっと解放される。


 サンタさん、お願いです。

 どうか、パソコンを遅延させずにクリスマスに配達してください。


 今の私は、そう願うばかりだ。









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