【ショートストーリー】カレーの惑星

藍埜佑(あいのたすく)

【ショートストーリー】カレーの惑星

【ショートストーリー】カレーの惑星


 カレーは地球の文化遺産だった。それは、人類が宇宙に進出した後も変わらなかった。カレーは、様々な星の住民に愛され、様々な星の食材で作られた。カレーは、宇宙の平和の象徴だった。

 しかし、カレーにも暗い歴史があった。それは、カレーの惑星と呼ばれる星で起きたことだった。

 カレーの惑星は、その名の通り、カレーに関するすべてのことが集まる星だった。カレーの種類やレシピ、カレーに合う飲み物やデザート、カレーの歴史や文化、カレーの研究や開発、カレーの祭りやイベントなど、カレーに関することなら何でもあった。カレーの惑星は、カレー好きの楽園だったのだ。

 しかし、カレーの惑星には、カレーに関する争いもあった。それは、カレーの正統性に関する争いだった。カレーの惑星には、様々な流派や派閥があり、自分たちのカレーが最高で最も正しいと主張し、他のカレーを見下していた。カレーの惑星には、カレーの戦争があった。

 カレーの戦争は、カレーの惑星の歴史の中で何度も繰り返された。カレーの戦争は、カレーの惑星の住民を苦しめた。カレーの戦争は、カレーの惑星の平和を壊した。

 そんなカレーの戦争の最中、カレーの惑星に一人の男がやってきた。彼は、「ハンバーグの惑星」からやってきたのだ。

 彼の名前はポール。ハンバーグの惑星で名高い料理人であり、彼のハンバーグは宇宙中の人々の心を奪っていた。しかし彼がカレーの惑星を訪れたのは、新しい食材や技術を探し求めるためではなかった。 ポールは戦火が広がるカレーの惑星を見て悲しみ、その場で決意したのだ。


「私がカレーの戦争を終わらせてみせる」


 彼は飲食で人々を幸せにする力を信じていた。そして彼にはそのための計画があった。 彼はそれぞれの派閥に出向き、その派閥のカレーを見せてもらい、順番にその味を楽しんだ。彼は、あらゆるカレーに感心しながら、それぞれの流派の領袖に謝意を表し、招待してくれたことへの感謝として、自作のハンバーグを振る舞った。 そして彼は言った。「あなたたちのカレーは実に素晴らしい。そのフレーバー、スパイスの組み合わせ、食材の調和。それぞれのカレーには、それぞれの魅力があります。だからこそ、それぞれのカレーが存在し続けているのではないでしょうか? そしてなによりも……」

 ポールは並み居る領袖たちを前に自信ありげに仁王立ちした。


「すべてのカレーがハンバーグと合う!」


 サムズアップしたポールを前に群衆は唸った。確かにどのカレーもハンバーグとの相性は最高だった。これを機に今までお互いを毛嫌いしていた他派閥のカレー同士がお互いの美味しさを讃え始めた。

 カレーの戦争はついに終わったのだ。

 ポールは人々が満足そうにハンバーグカレーを頬張る姿を見てこれまで感じたことのない幸せを感じていた。


 それがこれから「ハンバーグカレーの戦争」というさらにニッチな戦争を起こす端緒だとも知らずに……。


(了)

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【ショートストーリー】カレーの惑星 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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