小雪おばあちゃんの思い出煮込みうどん

夢月みつき

第1話「お婆ちゃんの味に近づきたい」

  私は、たまに無性におばあちゃんの煮込みうどんが食べたくなる。

 それは、普通の醤油べースのスープで豚バラ肉とネギなどが入っている。

 しっかりしたあまり、煮込んでいないうどんが好きな人もいるが、

 くたくたに煮て、味のしみたうどんがまた、良いのだ。



 十二月の師走に入り、朝晩冷え込むようになった。

 寒い時には、温かいものが食べたくなる。

「今日は、煮込みうどん食べたいな。お婆ちゃんの」



 夕食に私、雪菜ゆきなはお婆ちゃんの味の煮込みうどんを作ろうと、水色のエプロンをして、冷え切った台所に立った。

「う~、寒いっ」

 冷凍庫から豚バラ肉を出し、冷蔵室からゆでうどん玉、ネギ、卵、しめじを取り出すとネギをザクザクと包丁で、斜め切りに切る。


 しめじの石づきを切り、食べやすく切ってさっと洗い。

 包丁を軽く洗って、肉をレンジで解凍してから、豚バラ肉を切った。



 鍋にオリーブ油を熱して、まずネギをしんなりするまで良く炒め、豚肉としめじを入れ炒める。

「あつ、少し跳ねた」

 雪菜は、油が手に跳ねて少し、顔をしかめた。

 鍋に水を加えて、煮立ってきたら、顆粒かりゅうのかつおだしを加えて醤油を入れながら味を調える。


 舌と目分量が頼りなので、雪菜は自分の味と小雪こゆきお婆ちゃんの味を思い出しながら作る。

『雪菜は、お母さんに似てるから、料理上手くなれるよ』

 ふいに、お婆ちゃんの記憶が脳裏によみがえり、ふふっと微笑む。


 うどん玉を加えて、生卵を二つわって落とす。

 ぐつぐつと煮えてきて、卵が硬くなり過ぎないうちに火を止めるのだが、お婆ちゃんと同じく、くたくたに煮たうどんが好きな彼女は、卵を入れる前にうどんを煮ておく。


 煮込みうどんの匂いが鍋から、ゆげと共に鼻腔をくすぐり、少し幸せな気分になる。

「よしっ、出来た」

 雪菜は、どんぶりを二つ、食器棚から出して煮込みうどんをどんぶりに移す。


 そして、小さな器にうどんとつゆを少し入れて仏壇に持って行く。

 仏壇には、母と小雪お婆ちゃんの遺影が飾られていて笑顔で雪菜の方を見ている。

「お婆ちゃん、お母さん。うどん作ったよ」

 雪菜は、うどんの入った器を置くと、お線香をあげて手を合わせた。


 彼女は、リビングに行くと手を合わせて、父と煮込みうどんを食べ始めた。

「美味いな、このうどん」

 父が温かいうどんをすすりながら言った。

「ありがとう。おかわりあるからね」


 猫のみゃー子にも冷ましてあげる。美味しそうに食べているみゃー子。

「でもね」

 雪菜は首をかしげて、父に聞いた。

「何でか、私のうどんって、お婆ちゃんの煮込みうどんと違って、味が足りない気がする。簡単だし、作り方も同じなのに……。やっぱり、経験と愛情が足りないのかなあ」




 すると、父は笑いながら言った。

「経験はこれから付いていくし、確かにお婆ちゃんの愛情と雪菜のは違うけど。美味しいものを食べさせたいと言う気持ちは、同じじゃないか?父さんは、雪菜の味も好きだよ」


「そう?ありがと」

 嬉しくて、頬を染めた雪菜の顔が、ぱあっと明るくなる。

 自分の味を守りつつ、お婆ちゃんの味に近づけたらとそう思う雪菜だった。



 -終わり-


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 最後までお読みいただきありがとうございます。

 こんなお父さん、憧れます。


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