【後編】遅番勤務のこころの行方

 クリスマス。

 正しくはクリスマスイブ。

 巡回に出たメンバー以外の遅番の面々は、異様なほどおとなしく詰所で待機をしている。

 街のイリュミネーションが冬の寒さに際立って華やかになる時間。


「白服のサンタって王子様みたいでかっこいいよな」

「サンタ来ないかな」


 窓ガラスに映った白制服の己の姿に何らかの妄想を抱いてつぶやいているもの数名。

 なんだかんだいって、当日までには各自冷静になったのか、結局、彼女持ちを優先しての勤務体制になっていた。

 初代とはいえほぼほぼ20代で構成されるゼロ世代に既婚者はいない。故に後日の各自交代は異様なほどスムーズに進んでいたのを司は知っている。

 同期の姿に呆れのため息が出そうなのは司のほうである。そんな時だった。


「おっ、サンタが来たぞ」

「誰か手伝え」

「?」


なぜか裏口に2人向かっていった。そして段ボールを抱えて帰ってくる。女子二人と一緒に。


「Happy Holidays!」


 いつにない高めのテンションでカウンターの向こうから二人は司に手を振ってくる。おとなしくしていた同期たちはわいわいと段ボールを開封して中身を物色している。


「森、忍……」


 いったい何事なんだと聞くまでもなくわかりそうだが、自分の双子の片割れとその親友である忍が私服で登場したことにより、わからないでもない司は名前をつぶやくにとどまった。


「ハッピーホリデイ、司くん」

「ハッピーホリデイ、司」


 かぶって言い直さなくていいんだ二人とも。

 クリスマスは隠語として使われて続けているが天使に関するアレなので、今現在こういう感じの挨拶が一般的にはよく用いられている。

 改めてどういうことかと聞くと理由は簡単だった。


「それでも彼女持ちの人はかわいそうかなーと思って、一人ずつ交代できるか聞いてみたんだよ」

「今年は司も遅番だったから差し入れがてら詰所でこっそりパーティやりませんかって」


 そうか。だからくじ引きで決定後の交代が異様なまでにスムーズに進んだんだな。 

 詰所は一般事務棟の奥にあるため、基本的に人目につかない。

 ずっしりとした温かいパーティ用のチキンの詰まったバゲットを、ビニール袋ごと手渡されると同時に悟る。

 紙コップと紙皿の準備も万端で、アルコール度数のないシャンパンまでミーティングテーブルの上に次々並べられていく。

 ただでさえ連係力が必須の組織。こんな時ばかり異様に準備が早い。


「こんなに重いものを二人で買い込んできたのか」

「いいえ。事前に裏に搬入してもらって隠していました」

「私と忍ちゃんが到着したら一緒に準備しようねって」


 誰が?

 振り返るとあらかた準備が終わったメンツ全員が「何が?」みたいな顔で見返していた。

 全員だ。司以外の全員が知っていた。

 しかもぱん。と乾いた音がして紙屑が飛んできた。


「何フライングしてるんだよ」

「今の沈黙、タイミング的にいっこくらい鳴らしてみたくなるだろ」


 仕方のない妹たちだ。顔には出ないが大体いつも驚かされる。振り返るとにこにこしながら楽しそうに司の反応を伺っている二人がいる。


「せっかく久しぶりのクリスマスだから」

「家族や友達と過ごすのも、たまにはいいよね?」


 つまるところ、これは自分に対するサプライズなのだ。同期たちも全員まとめて巻き込んで。それでも全員が楽しく過ごせるのが、目をつぶるべき場所でもある。


「そうだな」


 さすがに勧められたクラッカーは手に取れないが。


「Happy Holidays!」


 端々の照明が落とされた中、煌々と照らされるクリスマスの食卓(テーブル)は、珍しくもにぎやかで、誰ともなしに放たれたその言葉で夜宴が始まることになる。

 ふだんは全く買いもしないクッキーやチキン、色とりどりのスイーツに笑顔を交わしながら。



 結局、その日の深夜勤務者だけが何も楽しみがなかったという来年の争いの種がまかれてしまったことに気づくのは、後日談である。

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特殊部隊「その日はお仕事ですよ!」クリスマス編 梓馬みやこ @miyako_azuma

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