イミビ

イミビ ３

　おおよう来たな。えろう遅うて……寒かったやろ。へえ元気そうで。早よこっち来て座り、そっちは縁側開いとるから寒いで。炬燵ぬくいで。いや縁側は閉めんとって。開けとかなあかんねん、お正月さんが入って来てやさかいに。今日はずっと開けとくんや。ほんでこっちの戸ォだけ閉めとってな、ぼんぼんストーブ焚きよるんやわ。

　ぬくいやろ？　今ご馳走（ごっつぉ）出すわな。よばれていき。あんたが来る言うて、お婆（ばあ）と娘がぎょうさん飯作りよったからな、向こうの部屋にも置いとんや。帰りに入物（いれもん）に詰めて帰り。

　食べたらお社あがるで。今年はええ方角（ほう）が山の方やって。いっぺん行ったことあるやろ。

　そやそや、ようおぼえとるな。だいぶまえにお墓があった言いよった山や。お社の右っ側にな、昔はお棺を担いで、あないな上まで持ってあがりよったんや。今もう移いてもたけど、ひい婆さんのお墓も、あっこにあったんやで。

　ほんであっこまであがる道な、途中狭なっとるやろ。山の肩のとこな。あっこは通るのに難儀しよったん。たまぁにお棺ようあげきらんと落としてまいよったりしてもたからな。そらその仏さんら今も崖の下や、よう引き上げん。気の毒（ど）っきゃ。気の毒（ど）っきゃけど、あんなとこ下まで下りられへんし、生きとる者（もん）の方が大事や。

　お？　サイレン来よるな。またどっか燃えてのやで。消防車がぎょうさん走りよるわ。山から下りて来よったんやな。夜中に難儀なことや。

　いやいや、関係ないで。青い火は仏さんがなるんやないわ。

　あの火が出て来るんは、お墓も谷もちゃうねん。あれはな、湧くんは町や。町じゅうから湧いて、かたまって山にのぼるんや。

　ここらのな、土地から全部火が湧きよるねん。儂（わし）、いっぺん見たことあるんや。大昔にお社あがっとったときにな、町じゅう青う燃えて……山も池もなんもかも、そらあそらあ恐（おと）ろしく、綺麗やったんやで。

　もうええんか？　ほな準備して行こか。お婆（ばあ）らがな、先行ってオコゼ供えてくれとるはずやさかい、うちはほっとっても燃えよらんやろ。