今日の私は最高にツイてる!
青樹空良
今日の私は最高にツイてる!
今日の私は最高にツイてない。
まずは寝坊。
学校に遅刻して先生に怒られ、クラスのみんなに笑われた。私の好きな
さすが私の好きな人。
だけど、怒られているところを見られたのは恥ずかしい。
次に宿題忘れ。
宿題をやるのを忘れたわけなじゃない。せっかく一生懸命がんばってワークをやってきたのに、持ってくるのを忘れたのだ。
辛すぎる。
三つ目は、水拭きをした床で思いっきり転んだ。
掃除中だったから制服のスカートではなくジャージだったのが唯一の救いだ。
スカートがめくれて、パンツ丸見えなんて最悪すぎる。
そんなことになったら、もう学校の中を歩けない。
そんな一日だったから、まだまだ何か起こるのではないかと私はもうびくびくしっぱなしだった。
こういうのを何というか知っている。
二度あることは三度ある。
四度目はないことを願いたい。
高校の門を出たときにはなんとなくほっとした。
もう何も起こらないのだと思い込んでしまった。
私は忘れていたのだ。
家に帰るまでが遠足だという言葉を。今日は遠足じゃなくて普通の授業の日だけど。
今日が好きなマンガの新刊発売日だと思い出し、私は本屋へ向かった。
いいことがなかった日だけれど、家に帰ってマンガでも読めばきっと忘れられる。
こんな日は、自分の部屋で思いっきりぐーたらしてやるんだ。
で、本屋で会計を終えて外に出た私を待っていたのは更なる悲劇であった。
絶望的な思いで空を見上げる。
さっきまでほどよい曇り空だったのに、それなのに。
雨が降っている。
それも小雨じゃないやつ。
しかも鞄の中には買ったばかりの本が入っている。私は買ったばかりの本を濡らすなんて絶対に嫌だ。
雲の様子からして雨はなかなか止みそうにない。
朝は寝坊して慌てて家を飛び出してきたから、天気予報なんて全く見ていなかった。
泣きっ面に蜂というのはこういうことか。
もう泣きそうだ。
「あれ?
途方に暮れてがっくりとうなだれている私に知っている声が聞こえてきた。
というか、聞き間違えるはずが無い。
「さ、斉木君!?」
あわあわと顔を上げる。
「こんなところでどうしたの?」
傘を差した斉木君がそこにいた。
「あ、えっと。か、傘。そう、傘忘れちゃって・・・・・・」
斉木君が私のことを見ている。
私が一方的に好きなだけで、ほとんど話したことも無いからどうしていいのかわからない。
まさかこんなところで会うなんて。
話し掛けられるなんて。
「……あのさ」
斉木君が口を開く。
「傘ないなら一緒に行く? 駅まで」
「……っ」
私は言葉にならない悲鳴を上げる。
「嫌ならいいんだけど」
私の態度を拒絶と取ったのか、背中を向けようとする斉木君に私は慌てて叫ぶ。
「お、お願いしま、ぴっ」
舌噛んだ。
恥ずかしくて死にそうだけど、このまま別れてしまったら絶対に後悔する。
何がどうなっているのか全くわからない状況で、私は斉木君と同じ傘に収まっている。
めちゃくちゃ緊張して、足がふわふわする。
斉木君は前を見て歩いている。
そこで私は、あることに気付いた。
今日は朝から最高にツイてない。
だから、この状況もその一部なんじゃないかと。
斉木君は、女の子なら誰でもほいほいと傘に入れるようなチャラ男なんじゃないかと。
そんなの嫌だ。
真面目でいつもおっとりしているところが好きなのに。
「あ、あの。斉木君」
「何?」
斉木君は私のことを見ずに答える。
「もしかして、いつもこういうことしてるの?」
「こういうこと?」
「女の子を傘に入れたりとか」
「えっ」
急に斉木君がこっちを向く。
それから、ぶんぶんと首を横に振った。
傘まで揺れて雨が入ってくる。
「違うよ。これは、その、皆口さんだから……」
斉木君の顔が赤い。
きっと、私もそうなのだろう。
「ごめん。急に駅まで一緒に行こうなんて迷惑だったよね」
斉木君が泣きそうな顔で笑う。
だから、私も首を振った。緊張している場合じゃない。
「全然迷惑じゃ無いから! 私も、斉木君だからだよ。他の男子の傘だったら入ってないよ!」
今度は噛まずに言えた。
傘の中に雨の音だけが響く。
「じゃあ、雨が降ってなくてもまた一緒に帰ろうか」
斉木君の言葉に私は頷いた。
今日は最高にツイていないなんて前言撤回。
多分、他の不運は全部この幸せの為だったに違いない。
二人で入る傘は狭くて肩にはぽたぽたと雨が滴っているくらいだけれど、そのぶん斉木君の近くにいられる。
今日の私は最高にツイてる!
今日の私は最高にツイてる! 青樹空良 @aoki-akira
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