#4

 ほどなくして、何やらべたべたしたヤンキー風の若い男女がやって来た。

 金髪の男の腕に両手を絡ませて寄りかかるようにして歩く茶髪の女。さきほどの火花と楓胡の様子と似て非なる下品さだ。

「くじひいていくべ」

「ひくひく!」

 田舎者の口調ではないのだろうが、これが彼らのコミュニケーションなのだろう。桂羅かつらは身構えた。

「おねえさん、くじ、ちょうだい!」せりふがひらかなにみえる。

「きゃあああ、みこよみこ!」巫女が珍しいのか? わたしはただの売り子だが、とは桂羅は言わない。

「撮らせて」と彼女は桂羅にスマホを向けた。

「あの……」桂羅は写真に撮られるのが苦手だ。といってはっきり断れるほど口は達者ではない。しかも知り合いの神社の巫女姿。勝手な振る舞いは許されなかった。

 女の気が済むまで桂羅は写真を撮られた。

「二十四番!」女の方が先に籤棒を引いた。その番号に相当する抽斗からとりだしたおみくじを渡す。

「大吉よ! やったわ!」世の中には幸せな人種はたくさんいるようだと桂羅は思った。

「じゃあ、おれっち」男の方が籤棒をひいた。

 その顔がわずかに曇る。そして男は言った。

「三十一番……」

「はい、三十一番ですね……」抽斗を引こうとして桂羅は一瞬手を止めた。ん? 三十一番?

「三十一番、ですか?」

「三十一だよ、はやくしてけろ」どこの言葉だ。

「ほんとうにい?」

「ほんとうにい!」

 首を傾げつつ、桂羅は仕方なく、三十一番からくじを取り出して男に渡した。

「何だった?」女の方が男のくじを覗く。

「ぎょえ! だいきょうーーーーーーーーーー!」マンションが建ちそうな長い叫びだった。

「あちゃあ、元旦からついてないね。あたしがあんたの分まで幸せにしてあげるよ」

 笑いながら女が男を引っ張っていった。

 ごちそうさま。桂羅は手を合わせた。

「おべんとう、持って来たわ」日和が戻ってきた。「何か食べたの?」

 不思議そうな顔をする日和に、桂羅は今のふたりの話をした。

「ああ、ときどきいるのよね、引いて出た番号と違う番号を言う人……」

「そんなひといるんだ?」

「たぶん、十三番を引いたんじゃない? 縁起でもないっていうので番号をひっくり返したのよ。十三番には大吉が入っていたのにね。神様のご託宣に背いて、別の神になびいた報いがその人に返って来るのよ」

 わざとやっているだろう、なんて神社だ! 桂羅は開いた口が塞がらなかった。

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