#3

 市内には観光地にもなっている大きな神宮があり、そこへひとが集まるから、ここのような地元の小さな神社には地元の人間しか来ないと日和は言った。

 しかしやはり寒い。桂羅かつらは座布団の上で足袋たびを履いた足指を動かした。

 窓口は外に向かって開け放たれている。後ろからはファンヒーターの暖風。寒さと暑さが違う方向から同時に襲ってくる。暖風で血管が広がり、そこに寒風がふきつけて冷やす感じだ。

 羽織を着込んでいるとはいえ、長丁場はこたえると桂羅は思った。

 一時間もいたが、くじを買いに来たのは十人くらいだったろうか。

 やがて火花ほのか楓胡ふうこが現れた。

 火花は赤いマフラーを首に巻いて皮ジャンの中に入れていた。楓胡も黒っぽい皮ジャンにジーンズ姿だった。

 先ほどまで巫女をしていた楓胡は一旦祖父宅にもどって着替え、火花のバイクでやって来たようだ。これからふたりであちこちまわるのかもしれない。

 桂羅は火花の赤いマフラーを見て顔を歪めた。

「仲の良い姉弟きょうだいね」日和ひより火花ほのか楓胡ふうこに言った。

 楓胡が火花の腕にまとわりついている。いつもの光景だ。血のつながった姉弟には絶対に見えない。昨日も一緒に風呂に入っていたとは日和に言えるはずもなかった。

「日和、籤、籤」火花が言う。

「三百円になります」日和が言った。

「百円に負けてくれない? オレとお前の仲じゃん」

「三百円です」

「つれないなあ……」

「まあ、桂羅ちゃん、素敵」楓胡は桂羅の方に目を輝かせた。「とてもよく似合っているわ。まるで天使」

「畏れ入ります」と言いつつ、桂羅は「同じ顔じゃん」と思った。

 ふたりはくじをひいた。

「まあ、大吉だわ」楓胡が興奮している。

「俺、末吉だ。何か微妙だな」

「あら、大吉や中吉は七枚ずつ入っているから、出る確率は四十八分の七ずつ。それに比べて末吉は二枚だけだから四十八分の二で末吉の方がレアよ」日和が不気味な笑みを浮かべた。

「そうなのか、ラッキー!」火花が馬鹿なのか賢いのか桂羅は未だにわからない。

 そして、何となく日和が火花と楓胡に対して嫉妬の目を向けているように桂羅は感じた。

 日和は従兄の彼女だし、楓胡と火花は血がつながった姉弟だ。そこに嫉妬の気配を感じるのはおかしいと思いつつ、彼らの関係は簡単に説明できないものなのだと桂羅は改めて認識した。

「そういえばその赤いマフラー」日和が火花のマフラーに目をとめた。「去年だったかしら、誰かさんのピンチに現れたオレンジ色の髪をしたバイク乗りの勘違いヒーローさんがしていたマフラーにそっくりね」

「ヒーローに赤いマフラーはつきものさ」イェイ!とでも言うかのように火花は指をたてた。

 昔から似たようなことをしているのか、 ばかたれ! 桂羅は呆れた。

 得意げに笑う火花とにっこり微笑む楓胡が立ち去ると、日和は腰を上げた。

「そろそろお弁当を配る時間だわ」そう言って日和は席を離れた。

 桂羅はひとりで籤売りの番をすることになった。

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