#2
母方祖父の家に停留するのは今回が三度目だ。
血のつながった祖父が二人とも存命であることを知らされてまだ一年もたっていない。去年の正月は以前通っていた高校の寮で静かに過ごした。
その昔四大財閥の一つだった
事情があって桂羅は東雲家にあずけられたのだ。その分家には実子はいなかった。桂羅を含めて三人の養子がいるのみだ。そして桂羅だけが幼いころから女子校の寮に入れられた。
今だから思う。義理の両親はいずれ返さなければならない娘に情が移るのを恐れ、自分を寮に入れたのだと。
親の愛情を知らずに育った桂羅は、やるせない気持ちをどこにぶつけたら良いのかわからなかった。
「
この神社は、桂羅たちが停留している祖父の家に近いところにあった。つき合いも深い。
この日和をめぐって従兄と
これだけの美人だ。とりあうのも理解できる。あの
その
「最近のおみくじは、スマホで読み込んで表示させるかたちをとっているところもあると聞きますが、この神社では昔ながらの方法をとり続けています」
「おお、日和ちゃん」老夫婦の顔がゆるむ。
「あけましておめでとうございます」日和は丁重かつ悠然とした所作で頭を下げた。
まさに絵になる光景。さすがの桂羅も目を瞠った。
「そちらの子は……?」
老夫婦の視線が桂羅をとらえた。
田舎の神社だけあって、やって来るのは近所の顔見知りばかりだ。そこに見慣れぬ娘がいたら興味を感じるのも不思議ではないだろう。
「こちらは
「もしや、あの
「鏡花さんに瓜二つだわ……」
祖父の田舎に来て、地元のひとに紹介されるたびに言われる台詞だ。
「あの鏡花さんも、ここで巫女をしておったのう……」
「それはそれは美しい巫女でしたね」
「私たちよりも、ですか?」日和が訊いた。
お
「ここのおふたりの方が綺麗ですよ」
「畏れ入ります」日和は満足そうに微笑んだ。
「おみくじを引かせてもらおうかしら」
「どうぞ」と言って日和は籤銭を受け取り、筒状の箱を差し出した。
夫の方が先にそれを振り、一本の棒が出てきた。
「十七番だな」
「十七番ですね」
日和は後ろにある小棚の十七番の
「こちらです」
妻も同じことを行い、二十六番を引いて、その番号に相当する
「まあ、中吉だわ」
「わしは末吉だった……」
老夫婦はにこにこしながら「またね」と言い、そこを離れた。
「というように」と日和は説明を始めた。「こちらで
小棚は七段七列、四十九個の小さな抽斗がついていた。
「一から四十九なのに四十八種類ということは?」どれか欠番なのか?
「今年は三十一番が欠番になっています」そして日和は声をひそめた。「その三十一番に大凶が入っているの」
「え、大凶?」
桂羅はおみくじをひいた経験がなかった。ミッション系女子校の寮生活が人生の大半だったために一般庶民の生活にうとい。ろくに買い物をした経験もない。
日和はおみくじについて一通りの説明をした上で付け加えるように言った。
「神社によっては何度くじを引いても良いとしているところがあります。その方がくじがたくさん売れます。そういったところのくじには凶や大凶が入っていることがあるでしょう。しかしうちは二度引きを原則として推奨しておりません。二度引きたいときは日を改めるように勧めます。二度引きを勧めない代わりに大凶が出ないようにしているの」
なるほど、大凶のくじは三十一番の抽斗に入っているが、その三十一番の棒はとりだせない仕組みなのだ。
「神宮とちがって、ここはあまりひとが来ないから時間をもてあますと思うけれど、頑張ってね」
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