おみくじ一喜一憂

はくすや

#1

「はい、できあがり、とてもよく似合っているわ」膝をついている胡蝶日和こちょうひよりが柔和に目を細め桂羅かつらを見上げる。

 姿見すがたみに映る巫女みこ姿に、桂羅かつらは不器用だが満更でもない不思議な笑みを浮かべた。

「ありがとう」

 相変わらず自己表現が苦手だと桂羅かつらは思う。必要最小限の言葉しか口にできない。

 胡蝶日和こちょうひよりは立ち上がった。音もなく滑るように畳の上を歩く。緋袴ひばかまがこすれる音が部屋に響く。

 かつて通っていた学園の荘厳な雰囲気とはまた別の神秘的な空気がその部屋に流れている。

 胡蝶日和の所作は、彼女がこの神社の娘で、すでに巫女の助勤を何度も繰り返していることを考慮したとしても、完璧だと桂羅は感じた。

 黒髪を後ろで束ね、額を出したその美貌はこの世のものではない宝物ほうもつを思わせた。黒髪に後光がさす気配すら感じる。

 それに比べ桂羅は年末にショートボブを切り込んでさらに短い髪形にしたばかりだ。

「うなじが素敵よ」

 耳元に囁く胡蝶日和の吐息がかかり、桂羅は耳が熱くなった。

「さて、行きましょうか」

 ふたりは揃って社務所しゃむしょに向けて歩いた。

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