第2章 第2話

今、私は湾岸線で先週父からプレゼントしてもらった718ケイマンに乗っている。約束通り助手席に妹を乗せて温泉旅行に向かっている途中だ。


それにしても妹は可愛くてモテるのだから、何が悲しくてうだつの上がらない兄と温泉旅行などに行きたいというのか理解に苦しむ。私は仕事のおかげで口座には2000万弱の預金があるが、このお金は父と祖父以外は知らない。


そのため、私がお金に困っていると思っているのか妹はわざわざ宿泊料金は折半でいいから、何なら一度私が全額払って、お兄ちゃんが就職してから後払いでもいいから行こうと言ってきた。私が兄として全額払ってもいいのだが、結構いい旅館に泊まるので、断るのも不自然と思い素直に甘えることにした。


それにしても、流石にポルシェ社がつくっているだけあって、この718ケイマンの運動性能は高い。流石に父の持つアストンにはエンジンの馬力で敵わないものの、ミッドシップにエンジンを搭載している故かスイスイとなめらかなハンドリングで動いてくれる。


運転には自信があるので、オービスや覆面パトカーがいない場所では車をガンガン追い越していく。ちなみに、覆面パトカーの見分け方は父からだいぶ前に教わっている。


何故か妹は運転中私にもたれかかってくる。この車はATなのであまり運転に支障は出ないが、少し重い。


大黒PAエリアに寄って、少し休憩をとる。相変わらずフェラーリやランボルギーニなどのスーパーカーがたくさんいる。私はもっとじっくり見ていたかったのだが、妹に引っ張られて早々に後にすることにした。


ちなみに妹は大黒PAで話しかけられていたランボルギーニのオーナーと仲良く喋っていた。車にそんなに興味もないのに、このコミュ力の高さは見習うべきかもしれない。ますます私より妹の方が暗殺者に向いているのではと思う。


予定通りの時間で、箱根に予約をしていた旅館に着いた。純和風の旅館で、中庭がとても広く散歩などをするのにおすすめらしい。


部屋に入ってみると、広い畳を有する古き良き日本の旅館がお出迎え。それでいてまめに改装をしているようで、古臭さは全くない。


宿について早速もう今日は運転はしないので、ウェルカムドリンクとして日本酒をいただく。あまり日本酒は詳しくはないが、ずっしりした米の風味が漂う美味しいお酒だ。よく、水のようなすっきりした日本酒が良いという言葉も聞くが、私としてはこのくらいどっしりした酒の方があう。一応若いからだろうか。


妹もその味にはご満悦らしい。ちなみに妹は一人で酒を飲むことはまずないが、いざ飲み始めると私以上に飲む。


その後は部屋でダラダラしつつ、温泉に向かう。温泉は源泉掛け流しで、私はあまり温泉の効能がどうとかはわからないのだが、とにかく温泉が広く、周りのレイアウトの作りもいいので、すっかり堪能しつつゆっくりしていた。


温泉から上がり、食事に向かう。料理もすばらしい、あえて和風の旅館で出しがちな海鮮系など箱根が苦手にしている料理は出さずに、地産地消でその土地おすすめのものを出してくれる。特に、たまたま取れたらしいジビエの鹿が美味しかった。野趣あふれる鹿をほんのちょっとフレンチの技法を入れつつ和食として仕上げたのはシェフの腕の成せる技だろう。さすがたかまつグループ。


部屋に帰り、追加で父の部屋から失敬したバランタインを飲む。妹も飲みたがっていたので中庭を見ながら一緒にゆっくりと大学の話を聞きながらちょっとずつ舐めるように飲んでいく。


しばらくすると妹がそろそろ酔ってきたので、布団に叩き込む。すると何故か同じ布団に引き摺り込まれて私を抱き枕にして妹は速攻で寝てしまったので、私もそのまま眠ることにする。


妹はぎゅーっと私をつかんで離さない。何だか甘い匂いがする。ロクシタンの石鹸がすきなのでその匂いだろうか。あと柔らかい。


穏やかな旅行を過ごせることに満足しながら、ゆっくりと眠りにつく。しかし、今日が平和だったからと言って明日もそうなるとは決して限らない。それを思い知るのは、次の日であった。




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現代日本の暗殺者 カピバラ @blackkapibara

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