1話 ② 放課後、君と交わした約束

 水島花凛が屋上から飛び降りる1日前の12月22日。花凛はオレンジ色の光が降り注ぐ教室で一人、黙々と受験勉強をしていた。5時のチャイムが鳴り、もうそろそろ帰るかと帰る準備をして、椅子を引き、教室のドアに向かって歩いていると、誰かがこの教室に向かって走ってくる足音が聞こえる。ドアが勢いよく開き、その足音の主と目が合う。

「水島! 良かった」

 息を切らせながら、花凛と話す匠。

「柴崎君、そんなに急いでどうしたの?」

 そんな匠の様子を見て、驚きを見せながらも聞く花凛。

「明日、水島から借りた本持ってくる」

「うん!」

「…あと、明日って学校終わった後何か用事とかある?」

 花凛がじゃあねと言おうとした瞬間、匠が口を再び開く。

「特にないかな。どうしたの?」

「あのさ…明日、学校が終わったら、『パステルライド』のコラボカフェ行かない? ちょうどやっているみたいだし、クリスマス限定のグッズが買えるみたいで…」

 少し照れながらも、勇気を出して花凛を誘う匠。俺は水島を誘うのに物凄く緊張をしていたから、水島の返事を待つ時間が何倍も長く感じていた。ドクドクと鼓動が大きくなっていく。断られたら、今日はショックでご飯が喉に通らなくなるかもしれない。

「うん! 私もちょうど行きたいと思っていたんだ!」

 花凛は声色と顔色に嬉しさを滲ませながら言った。俺は、水島の返事に安堵した。

「良かった! じゃあ、明日な!」

 湧き上がってきた声までもが喜びと嬉しさで満ちていた。

「また明日!」

 花凛は匠の笑顔を見て、微笑みを零しながら、そう言って教室を後にした。無事に誘えて、OKを貰えたからちゃんとご飯食べれそうだ。明日の放課後が途轍もなく楽しみだ。勉強頑張ろうっと上機嫌になっている匠。鼻歌を歌いながらスキップしたくなるほどだ。でも、誰かに見られてしまったら恥ずかしいからさすがに辞めとく。嬉しさの余韻に浸っていた。しかし、明日悲劇が訪れてしまうなんて、この時の俺は一ミリも考えもしなかった。


 そんな教室で繰り広げられていた二人の会話をクラスメイトの金城優芽が盗み聞きしていたのだった。そして、歯をくいしばり、花凛の背中を睨みつけて、聞こえないくらいの舌打ちを向けていた。

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Turn Back Time 君とまた出会うために 詩月 彩 @chisa1215

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