彼の行方 (短文詩作)

春嵐

第1話

 彼がいなくなった。

 いつか、こんな日が来るような気がしていて。それでも、考えないようにして、今日まで過ごしていた。そして今。彼はいない。


 道路上でぶっ壊れていた彼の車を、わたしがなんとなく眺めていたのが、最初の出会いで。なんとなく思い出せる。彼が何か車を直していて、わたしがただそれを見ている。どこが壊れてるんですかとか、助けは要りますかとか、そんな他愛ない会話。


 忘れはじめている。自分の薄情さに、あらためてびっくり。

 彼との出会いも。彼との日々も。こんなにもあっさりと。忘れていくものなのか。


「いや、泣かない。なかない」


 自分に言い聞かせる。泣かない。彼がいないぐらいで。泣いちゃいけない。


 泣いたら。


 これからの人生、ずっと泣きながら過ごしてしまうような、気がするから。泣かない。

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