第2話

 彼女は、自分のことなど、もう。忘れているだろうか。


 そうであってほしいという自分と、彼女にだけは覚えていてほしいと願う自分。両方ある。自分の中にふたりいる。そして、決着はつかない。


「空が綺麗だなぁ」


 身体の半分を、削り倒された。もう動けない。街の景色。星がたくさんある夜空と、街の灯り。なにやら特別なネオンを使っているとかで、この街は、星も見える。そこが好きだった。


 感覚はない。食われたのは感情と存在そのもの。身体の半分。つまり、自分の存在の半分が、この街から消えた。もう半分食われれば、自分という存在は消滅する。無でもない。しぬわけでもない。消滅する。最初から存在しないので、無ですらもない。皿の上に料理があれば、食えばなくなる。それは無くなったということで。皿そのものがなければ、料理という発想そのものも消える。そんな感じ。


 腹は減ってない。そもそも感覚がない。

 彼女は、そろそろごはんだろうか。なに食べるんだろうか。どうでもいいことばかり考える。助けが来るかどうか、とか、あまり気にならなかった。自分が消えても、誰かが街を守る。ただ自分が消えるだけ。


 こわくないのが、ちょっと、こわかった。

 薄情だな自分は。彼女のことを呑気に考えたりして。


 初めて会ったとき。

 道路で車を直していて。

 彼女の助けを借りるかどうか。


 こういう生き方をしているから、彼女と仲良くなっても、綺麗さっぱり消えてしまうんだよなとか思ってたっけか。今その通りになるわけだけど。


 それでも。

 彼女のことを考えながら、消えるなら。わるくないかもしれない。空を眺める。綺麗。


「わるくないな」


 わるくない。これでいい。これでいいんだから。そう自分に言い聞かせて。目を閉じる。涙は出ない。

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