「よいしょ」


 腰かける。道路脇の、手頃なガードレール。


「いや、あの」


「手伝いませんよ。手伝いません」


 でも。見てる。車にはさわらないけど。ここに座って、待ってる。


「何年。経ったと思いますか?」


「何年?」


「答えて」


 語気が強いか。落ち着けわたし。


「いや、ええと」


「3年です。3年」


「さんねん」


「急に消えて。探して。追いかけて。街を守って。また会えるようになるまで。3年ですよ」


 彼。ちょっとびびったらしく、無言。


「ひどいですよね。置き去りですよ。なんとかして見つけたら、本人は何も知らず呑気に車を直してるときた。この、なんか、これは。どうなんでしょうね?」


 違う。こんなことが言いたかったんじゃない。でも。びびってる彼の姿は、ちょっと見てておもしろかった。たぶん、任務で消滅した後からじかに、ここに来てるらしい。3年間の消えていた頃の記憶が、無い。


「あの」


「待ってますから。車。直してくださいね」


「と、言われましても」


「待ちますよ。わたし。3年ぐらいならここに座って待てます」


 彼。うろたえている。

 さて。何時間、もつかな。

 その車はわたしがさわらない限り直らないぞ。わたしの記憶に紐付いて出てきたんだから。





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彼の行方 (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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