第43話どうして許せるのでしょうか?

私は実家から送られて来た荷物を整理していました。


トランク一つでこのブランシェの街を訪れましたが、色々ありまして、その後送られて来た私の荷物は未だ整理ができていませんでした。


枯れ木に火をつけていくつかの私物を焼いております。


グエル様に頂いた品や手紙......そういったものをです。


「グエル様! いけません! 事前にお約束もなくお尋ねになるなど!」


「た、頼む! 俺はどうしてもリーシェに謝りたいんだ!」


突然騒々しい声が聞こえて。


声の主は......グエル様ですね。今更何用でしょうか?


侍女のマリアが追い返そうとしたものの、私が庭先にいるのがわかってしまったのか、勝手にお入りになってしまいます。


「リーシェ。すまなかった。僕は君を傷つけてしまった。僕はエリスの魅了の魔法に屈してしまっただけなんだ。許して欲しい」


「......どうして許せるのでしょうか?」


そう呟いた私に傷ついた顔をするグエル様。


「お願いだ。僕を許してくれ。僕は魅了の魔法に屈してしまった。でも、本当は君を愛している。エリスが僕の元から去ってから、本当の自分に戻った。僕は改めて君の知性や教養、その幅広い知識に感銘を受けたよ。僕は君のおかげで王太子になっていた......と、気が付いた」


彼の言葉は本当なのでしょう。実際、婚約破棄を宣告される前にその言葉を頂けましたら、私も許すこともできたかもしれません。


しかし、あなたは私を皆が集う舞踏会で婚約破棄などという愚行を演じた。


......私には無理です。


何より、あなたの瞳に私を映さなくなって半年以上。


エリスさんが転校して来て以来ずっと。


あなたにとってはつい最近のことの様に思えるのでしょう。


私にとってはとても長い......そう。あなたへの想いが消え去るには十分な時間でした。


最初はきっと一時の気の迷いと信じ、そして、諦めて......そして私の心にあなたはいなくなりました。


「リーシェにした愚かな過ちを何度も何度も後悔した。何度謝っても、罪は消せない。僕が愚かだったことは重々承知している。だけど、二度と、あんな間違いは起こさない。君だけを見る。君だけを愛する。僕にもう一度チャンスをくれ。君を守りたい。君に相応しい男に必ずなると誓う、だから!」


彼の言葉に偽りはないのだろう。だが、その全てが虚しく、どうでもよく思える。


「お願いだ。僕を許してくれ。僕と一緒に人生を歩んでくれないだろうか?」


真摯な謝罪の言葉と真剣な愛の告白。


それは彼の真剣な想いなのだろう。


だが、私はグエル様から頂いた大切な筈だった手紙を火にくべると、ぽつりと言葉が溢れた。


「私には無理です」


見たことのない程沈んだグエル様の顔。それが本当に心の底からの反省であることはわかる。


「君を傷付けてしまった。僕は何もわかっていなかった。何度でも謝る。だから僕のことをもう一度あの頃と同じ様に優しい顔で見てくれないか? 君を心の底から愛している。それに気が付いた」


過ちを悔い、反省し、私への想いがただの政略結婚の相手から本当の愛に至ったのだと思えます。


......例えそうであっても。


「どうして許せるのでしょうか?」


「え?」


狼狽するグエル様。


「あなたにとっては謝れば全て許されるのでしょう。しかし、私はあなたが再びまた、同じようなことになるのではないか......としか考えられません」


「そんな事はない! 同じ過ちなど二度としない! お願いだから信じてくれ!」


「グエル様のお気持ちに嘘偽りのないことはわかります」


「ならば!」


「今の私はグエル様のことを愛することはできません。 私はそれでもグエル様を信じることができないのです。あなたにとってただの過ちだったとしても、私はやはりあなたにまた裏切られるとしか思えません。......あなたへの愛情が覚めるには十分な時間がございましたし」


「......つッ!」


私も人間なのです。された方はいつまでも覚えているものなのです。


やった方はすぐに忘れてしまうのでしょうが。


私はあなたが私から離れていった痛みを忘れられない。


自分を守るため、あなたとは二度と会いたくない......それだけです。


「いい加減にしないか? いつぞやの愚かな王子」


「!! 何故お前がここに?」


突然声をかけてきたのはクロード様。そう言えば、今日ご訪問の約束がありましたね。


「お前は王太子を廃嫡されたのだろう? お前にリーシェを幸せにする度量などない。よくもしゃあしゃあと姿を現すことが出来たものだな」


「煩い! 身分や地位だけで人の幸せは決まらない! 僕は絶対リーシェを幸せにする」


「俺達は今日正式に婚約する」


「......え?」


クロード様から唐突に突き付けられた言葉に呆然自失になるグエル様。


「もう帰れ。お前の居場所はここにはない」


「ぼ、僕はリーシェを愛しているんだ! 簡単に諦められない!」


「ならば、何故婚約破棄などしたのだ?」


「あ、あれはエリスの魅了が!」


グエル様にとってはそれで全て説明できてしまうのでしょう、でも。


「俺もエリスにすり寄られたが、一寸も気持ちは揺るぎはしなかったぞ。お前の気持ちなど信じることができる筈がないだろう。魅了の魔法は人の気持ちを大きく捻曲げることはできない。お前が本当にリーシェのことを愛していれば、決して禁忌の魔法に屈することはなかった」


「ぐッ!」


涙を流しながらよろよろとグエル様は立ちあがり、立ち去って行くようです。


最後に一言、グエル様はおっしゃいました。


「許してもらおうとした僕が馬鹿だった。君にしたことを考えれば当然だ。愛していたよ。君が幸せになることを祈っている」


「さようなら......グエル様」


私はただ、そう言いました。


気が付くとクロード様が私の手を握っていました。


「どうされたのですか?」


「決まっているだろう? お前が他の男に盗られてしまうんじゃないかと心配しただけだ」


なんて可愛らしい方なんでしょう。


これが、あの氷の皇子と呼ばれた人の正体だなんて......ただの不器用さんですわね。


「エリス嬢の処遇が決まった。いや、選ばされた」


「どういう落としどころになったのですか?」


エリスさんは私への殺人未遂、グエル様への魅了の行使にアルフレッド国王への魅了の行使で裁判にかけられていた。


「斬首刑を選べば家族を助け、修道院への道を選べば家族は斬首刑にするという選択をさせたそうだ」


「エリスさんはどちらを選んだのですか?」


私は何となく、結論が予想できたのですが、一応聞いてみた。


「修道院への道を選んだそうだ。アルフレッド王の配慮も台無しだな」


「......そうですか」


少し心が沈んでくる。


「アルフレッド王から確認があったのだが」


「何の確認ですか?」


「敵国ヘルクとの戦地の近くの修道院にエリスを引き取ることは可能か? をだ」


「そうですか」


私はエリスさんの生末がわかりました。


彼女は家族を犠牲にして生き延びる道を選んだつもりのようでした。


しかし、戦地近くの修道院というものは......実質娼館です。


戦争で傷ついた男達を慰めるという名目で身体を......。


それなりの稼ぎにはなるそうですが、長く務めると病気などで死んでしまいます。


彼女の寿命は......おそらく長く持って三年といったところでしょうか。


「父から皇太子になれと命じられた」


「はい?」


唐突に何を言い出しました?


「今日は婚約するだけでなく、結婚式の予定も話しあうぞ」


「は、はい?」


「お前は皇太子妃、将来は皇太后になるのだ」


「まあ、そうなりますね。でも、私はグータラ生活を満喫しますので、よろしくお願いいたします」


「何を言っているのだ? 皇太子妃、皇太后がそれでいい訳がないだろう?」


「し、しかし、や、約束が! 婚約者になってもグータラ生活を約束してくださいましたではないですか?」


「それは婚約している間だけだ。結婚したら、そうはいかん」


あー!!!! もう、やっぱりこの人は冷血漢でした!


「俺の妃となれ」


そういうと、再び私に跪しづいて、私の掌に接吻すると、その左手の薬指に婚約指輪をはめてくれました。


こうして、このやたらと顔のいい冷血漢の前で、だらしなく、ふにゃふにゃとなった私は流さるがまま結婚し、後に王子を三人と王女を二人産んだ。


貴族の結婚なんて、政略でしかないと思っていたが、そんな事もないなと思う様になったのは子供が大きくなってからである。


Fin


ちょっと面白かった!」

「島風の新作を読んでみたい!」

「次は何を書くの?」

と思って頂いたら、島風の最新作を是非お願いします。リンクがありますよ~☆

読んで頂けると本当にうれしいです。

何卒よろしくお願いいたします。ぺこり (__)

第1話リーシェ、異世界転移する - ループ七回目の魔王はバズりたくない~パーティを追放された底辺配信者、うっかりSSS級モンスターを殴り飛ばしてしまうが、もう遅い~ - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16818023212679529300/episodes/16818023212679648853

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婚約破棄令嬢は推理する~ゆっくりスローライフを目指しているのに帝国の皇子から求婚されるは殺人事件が起きるとかなんて聞いてません~ 島風 @lafite

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