ロマンで食えるか!!

「閣下、こちらが兵器開発部門です」


「うわぁ……壮観」


「なにか?」


「い、いや、なんでもない。アニエル、労働ノルマの上昇率は、兵器開発部門が飛び抜けているのだったな?」


「はい、そのとおりです。人口に応じて農業部門やインフラ部門は20%台で推移していますが、兵器開発部門だけが飛び抜けて、400%に達しています」


「この格納庫の様子を見れば、それもうなずけるな」


 格納庫に案内された俺の前には、沢山の兵器が並んでいる。

 しかし目の前に並ぶ兵器は、剣と魔法の世界にはそぐわない見た目をしていた。


 格納庫にはロボットや戦闘機がある。

 だだ、どれもバチクソにSF的なデザインだ。


 直線的でエッジの効いたフレーム。

 幾何学を利用した、無駄のないエンジン配置。

 デザインはクールだが、明らかに時代がこの世界の数千年先をいっている。


 なにしろ他の国は、馬に乗った騎士が主力なのだから。

 こんなのオーバーテクノロジーっていうレベルじゃない。


 これはこの国の世界観というか、テーマに関係している。


 俺が転生した国は、アイゼン帝国という。


 この国は世界最大の大陸を手中に収めている。

 ラスト・ファンタジーのなかでも最強の帝政国家だ。


 しかし、100年前の帝国は、辺境の貧乏国に過ぎなかった。

 とある技術革新によって、大陸に覇を唱える大帝国となったのだ。


 その技術革新とは、魔法と科学技術を合わせた「マギテック」だ。

 この技術により、帝国は100人の兵士に相当するマギアーマーや、飛空戦艦といった超兵器を作り出し、またたくまに周辺国を征服していったのだ。


 他の国が剣と魔法で純粋なファンタジーをやってる所に、この帝国はス●ーウォーズの技術力で殴り込んでくるのだ。そりゃ勝てないほうがおかしい。


 まちがいなく世界最強の帝国だ。

 ――本当ならな。


 帝国が精強だと言っても、しょせんRPGゲームのやられ役だ。

 苛烈な政策を続けたことで支配している属州の反感を買い、やがて主人公とその仲間が立ち上がったことにより、帝国は滅びてしまう。


 本来国を守るべき皇子の手で、全国民が悪魔の生贄にされるという最悪の形で。


(なんとかそれを回避できたら良いんだけどな……)


「これはこれは閣下……」


 あ、こいつもういたのか。


 俺の目の前には、いかにもなマッドサイエンティスト風の男がいた。男は白衣を着ているが、薬品と油で薄汚れたそれはとても「白」衣とは言えない。


 服がそうなら頭もそうだ。

 ボサボサの長髪をして、レンズのくもったメガネをかけている。


 ここまで来るとある種の完全装備だな。


「確か――」


「筆頭魔機術師テックウィザードのマギスですヒヒ……。ご機嫌麗しゅうございますな」


 そう語るマギスの眼鏡の奥には、狂気の宿った瞳がある。

 自分のやってることが世界を救うと信じて疑わない、そんな目だ。

 見ているだけで何か不安な気持ちになる。


 実際、このマギスというキャラは頭がおかしいヤツだ。


 人体実験を伴う兵器開発を行い、安全性を無視したロマン兵器を作り出す。

 そしてその兵器を主人公に送り付け、毎回壊されるというキャラだった。


 もしかしなくても、労働ノルマ悪化の原因はコイツだな。


「マギス、質問がある」


「なんでございましょう。何なりとお申し付けを」


「兵器開発部門の労働ノルマの上昇率が気にかかってな。劇的という言葉でもおさまらない上がりっぷりだ。マギス――何をしているのか答えろ」


「ヒヒ……帝国のために身を粉にしているだけでございますよ」


「努力は美徳だ。だが他人に押し付けていているだけではどうかな?」


「では皇子、私めの成果をご覧になってください。きっとご満足いただけるかと」


「ふむ……」


 背中を丸めたマギスは格納庫の中を案内しはじめた。

 なんか嫌な予感するなぁ……。


「閣下、まずこちらをご覧になってください」


「これは……マギアーマーか」


 俺の目の前には、人と同じように2本の足、2本の手がついた人型兵器がある。

 カチッとした力強いシルエットのこれは、マギアーマーという兵器だ。


 実は、このマギアーマー。ロボットのようだがロボットではない。


 というのも、コイツは中に人間が入らないと動かない。つまり、マギアーマーは俗にパワードスーツと言われる、動力アシストが付いたよろいなのだ。


「おしいですな。こちらにあるのは『マギアーマー・リーパー』です。標準のマギアーマーはあちらです」


 そういってマギスは別のマギアーマーを指差す。

 だが、俺にはまーったく違いがわからない。


「……全く同じに見えるのだが」


「よく見てください。小手と肩のデザインが違うでしょう」


 あ、ホントだ。肩のアーマーがちょっととがってる……っておい!!

 良くみたらアーマーの手の指が無くなってカマになってるじゃねーか!

 これじゃ何も持てないでしょ!!!


「手の指が無くなっているようだが……」


「はい。手指をカマに換装したことで、リーパーは白兵戦機能に特化しています。この爪はオダのカタナの技術を利用しており、その切れ味は恐ろしいほどです」


「で、白兵戦以外・・の機能は?」


「不要なので取り外しました」


「つまり……このカマの他に武装はないということか。射撃武器はもちろん、ランスやソードといった、他の白兵戦装備も使えないということだな?」


「そうですが、何か問題が?」


「問題しか無い。白兵戦に突入するまで敵に撃たれ放題ではないか」


「ハハハ。閣下はマギアーマーを百貨店にするおつもりですか」


 ム、ムカつくなコイツ……。

 皇子に軽口たたくとはいい度胸してるわ。


 そういやマギスとユリウスって原作だとよくコンビ組んでたな。

 この態度はそこからくる余裕か? なら、改めさせるべきだな。


「遊び過ぎだ。お前の思いつきで苦労するのは前線の兵士と労働者だ。リーパーのこれはマギアーマーのオプション装備か? それともこれが初期仕様なのか?」


「はは、は……初期仕様です」


「つまり、この状態で生産しているわけか?」


「そのとおりです」


 こいつ、アホか?!

 近寄って斬るだけのマギアーマーをライン生産してんの?!

 なんで誰も止めなかったのよ!!!


「よし、アニエル。リーパーの生産は廃止だ」


「ハッ、かしこまりました閣下!」


「閣下、おたわむれにしてもひどいですぞ!!」


「そうは言うがなマギス。これを着る兵士の方が酷い目に合うだろう。しかもこの爪、カタナの技術って事は……工場生産じゃないだろ?」


「はい。オダの刀工が不眠不休で鍛え上げております」


 えぇ……それはいくらなんでもダメだろ。

 いや待て、属州民は基本的に使い捨てだったな。

 ちょっと理由を考えないと……そうだ!


「アニエル、これと同じ製造工程のモノは基本的に許可するな。属州民を使い捨てにするにしても、そのうち作れなくなる兵器では意味がない」


「ハッ!」


「お、お待ちを、オプションで射撃装備を開発すれば、リーパーはもっと良い兵器になります……! 現在、短射程ながらも高威力のショットガンフィンガーを試験中でして!!!」


「なぜ射程がないと言っているのに、短射程なのだ。普通のマギアーマーが使ってるマシンガンを持たせれば良いだろう。おや、そうなるとカマもショットガンフィンガーも不要だな。ということは、普通のマギアーマーで十分ということだ」


「グフッ!」


 ふぅ。何とかポンコツ兵器の増殖を防げたぞ。

 まさか、マギスが作ってるのって、こんなのばっかりか?


「では、つぎはこちらを……これは指揮官用のマギアーマー・コマンドです」


「通常と色が違うな。性能も違うのか?」


「もちろんです! パワーゲインは通常の2倍、装甲は上質なオダの黒鉄鋼を使うことで速度も耐久性も3倍です! 製造、整備のコストも通常の3倍以上かかっていますが、それに見合うだけの性能があります!!!」


「すさまじいな。ところで……どうして前線に立たない指揮官にこんな強力なマギアーマーを用意する必要があるのだ?」


「えっ。」


「アニエル、こいつの整備は一般のマギアーマーと同じか?」


「いえ、特別仕様で全て異なります。」


「指揮官用ということは部隊に1機だな? なのに整備方法が全て違うのか?」


「はい、そうです」


 聞いてて頭が痛くなってきた……。

 強いのは良いけど、それじゃダメでしょ!!!


「性能は良いが、運用に問題がありすぎる。アニエル、コマンドは特殊部隊運用に特化させる。指揮官には塗装だけ変えた通常のマギアーマーを割り当てろ」


「ハッ!」


 その後もマギスの案内で格納庫を見て回る。

 だが、どの機体にも運用、あるいは技術的な問題があった。属州民が労働で強いられている過大な負担は、そのほとんどが無駄なものだった。


「マギス、なぜ色が違うだけで生産ラインを分ける必要がある。それに見た目が同じなのに性能が微妙に違うマギアーマーが多数存在する理由は何だ」


「そ、それは……状況に応じた小規模な改良を加えたからでして」


「よし、全部廃止だな。アニエル、これ全部標準型マギアーマーにまとめろ」


「ハッ!」


「しゃぁ?!」


「マギアーマー・ヘビー? コイツが持ってるバズーカは標準型にもあるだろ?」


「いえいえ、この『ヘヴィバズ―カ』は『マギバズーカ』より大型で、弾薬の互換性がないのです。そのかわり高威力を実現しておりまして……」


「バズーカだけ作れ。なんでアホみたいに装甲化した機体までセットで作るんだ。重くなりすぎて、格納庫の床まで作り替えてるじゃないか」


「廃止して資源化します」


「頼む。流石に資源がもったいない」


「どむッ?!」


「マギアーマー・マリーン? 水中特化型はわかる。だが、水中でしか使えないアーマーがなんで10種類もあるのだ」


「そ、それは……この世界は8割が海でして――」


「人類はその残り2割に住んでいるんだ。アニエル、標準型と高級機のハイローミックスで行くぞ。水中型は2機種に絞る」


「かしこまりました」


「ごっぐ?!」


 そういえば……帝国のマギアーマーって異様に種類があったな。


 ゲームだから、敵の種類を豊富にしてプレイヤーを飽きさせないのは重要だ。

 それはわかる。スゲーわかる。


 だが、RPGゲームのノリで兵器開発やってたら、いくら資源と労働力があっても足りるわけねーだろが!!! アホか!!!!


 こんなことやってたら、そりゃ属州民の労働ノルマが跳ね上がるわけだよ!!!

 廃止、廃止だああああ!!!



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転生したら、愛の重すぎるライバルでした。~悪の帝国の皇子は、破滅エンドを避けるために善政を積む~ ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

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