6

 音がした窓を開けると、そこには懐かしい顔があった。

「ヴェール様!お目覚めになったのですね。」

「久しぶり。君へ真っ先に伝えるべきだったよね。」

「いいえ、ヴェール様にご足労いただく必要はありません。」

 様子を見に来てくれたのは、森の精霊ルワ。森の神ボワと共に森を守っている精霊の中で、リーダーのような存在だ。精霊のトップに立つ者は、唯一名前を持ち、自分の意志で動くことができる。彼女以外の精霊は、森の神の意志が注がれ続けるので、自分の意志を持たないらしい。

「フローラさんから知らせが?」

「はい。フローラさんからの知らせと共に、ヴェール様の香りが動くのを感じ、木々が場所を教えてくれたのです。」

「そうか。森の様子はどう?」

「変わりないです。ヴェール様が張ってくださっている結界のおかげで、≪悪い気≫が外側から入ってくることはまずないです。」

「10年も経ったなら、結界の様子を見にいかなければならないね。」

「守人役もいるので、お急ぎにならずとも大丈夫です。本調子になられてから、共に参りましょう。」

 穏やかなルワの笑みが、心に沁み込んでくる。同時に、俺の脳内へ注がれてくるのは深く重みのある、この10年の大まかな記録と彼女の思い。そのおかげで、この国と森との記憶をより鮮明に思い出してきていた。

「国との関わりは、途絶えてしまっているのかい?」

「はい。……お目覚めになられたばかりのヴェール様には、大変申し上げにくいのですが……。」

「大丈夫、俺のことは気にしないで。言ってごらん。」

「……はい。ボワ様をはじめとする緑の神々は、オリベルトとの交流を殆ど経っています。特にこの数年はそれによる影響が、顕著に表れていると思います。」

「なるほどね、そういうことか……。」

 古い記憶と結びつき、この部屋に、城に、5号に感じている違和感の理由を、理解し始めていた。

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そして後に、星は包まれる 青海空羽 @aomiku

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