虹の橋のたもとに、おじいちゃんがいた。

まえばる蒔乃

第1話

 ーー虹の橋のたもとでは。

 ペットたちは一番元気だった頃の姿で楽しく暮らし、飼い主のお迎えを待っているという。


***


  理由ワケあって死亡した私は、愛犬ベーグルに会うべく虹の橋のたもとまで駆けた。

 しかしベーグルは、チャラいイケメンお兄さんとフリスビー遊びに興じていた。


「だ、誰よその男ーッ!」


 よく見るとお兄さんは名札をつけていた。


「ペット:ヤスユキ/人間♂/享年59歳」


「待って!? ペットなの、お兄さん!?」


 叫ぶ私にお兄さんとベーグルが気づく。


「わふッ! わふッ!」


 もふもふと飛び込んでくるベーグル。

 顔をベロンベロンに舐められる私を、お兄さんが覗き込んだ。


「なんだお前、あずさか」

「え……その声はまさか……おじいちゃん?」

「ああ、ジジイだ」


 おじいちゃんはにかっと笑う。

 懐かしさと嬉しさで涙腺が緩みそうになったけれど、聞かなければならないことがある。


「なんでおじいちゃんがペット枠でここにいるの」

「決まってるだろ。愛子を待ってるのさ」

「…… おばあちゃんを?」

「実はな。愛子と出会ったのは、とある情報誌の募集記事のーー」

「ぎゃああ待って、身内のそういう話をいきなり聞くのは」


 耳を塞ぐ私に、おじいちゃんは笑う。


「そうそう。お前が聞くにはまだ早いだろう。さ、お帰り」

「え……?」


 その時。私のみるみる体が透き通っていく。まだ仮死状態だったらしい。

 おじいちゃんはベーグルを抱っこして微笑んだ。


「お前も愛子おばあちゃんと一緒に、人生ゆっくり楽しんでおいで」

「おじいちゃん……」

「あ、あずさ。最後に言っておく」

「何?」

「プレイするときは慣れたプロがいる場所で安全におこな」

「もっと違うこと言ってくんない!?」


 がばり。

 病院のベッドから起き上がった私に周囲がどよめく。

 隣には目を真っ赤に腫らしたお母さん。真っ青のお父さん。

 そしてーーおばあちゃんがいた。

 記憶が消えないうちに言わなければと、私は何より先におばあちゃんに伝えた。


「私、おじいちゃんと話してきたよ」

「まあ、三途の川で?」

「……微妙に場所は違うかなあ。でもおじいちゃん、まだまだ待てるって笑ってたよ」

「あらやだ。あの人ってば、……ふふ」


 おばあちゃんは意味ありげに目を細めてこう呟いたのだった。


「昔から待て・・が好きだったものね。まだそんな強がりを言えるなら、たっぷりお預けしてあげなくちゃ」


 ーーおじいちゃん。

 大好きなのお迎えは、まだまだ先になりそうです。

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虹の橋のたもとに、おじいちゃんがいた。 まえばる蒔乃 @sankawan

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