第10話 旅は続く

 闇雲に斬りかかってくるかと思ったが、それはしない。わたしの実力を察する程度には、この狂戦士ベルセルクにも実力があるようだ。

 それなら実力者には礼を尽くし、わたしの剣技をお見せすべきだろう。

 狂戦士ベルセルクは、わたしが持ち替えた剣を見るのは初めてだろう。だが、警戒するより見下したようだ。狼の頭部を被った下の素顔がニタリと笑う。

 確かにこの細く薄い刀身で、あの海賊の剣ヴァイキングソードと打ち合ったら間違いなくへし折れる。

 右手で剣を握って、刀身を右肩に担ぐ。左手で手招きして、狂戦士ベルセルクを誘ってみた。

 あざけられたと思ったか、わたしの脳天をめがけてかなり鋭く打ち込みが来た。右足を引き、身体を僅かにずらして、それを躱す。

 ズン!

 真に地面を揺さぶるような一撃だった。そして、わたしは剣を一閃する。

 狂戦士ベルセルクは勝利を確信したように顔に笑みを浮かべて、右手をわたしの胴体に向かって真横に振り抜いた。

 わたしの顔や鎖帷子チェーンメイルに鮮血が飛び散った。

 狂戦士ベルセルクの顔に困惑が浮かぶ。わたしの胴体を横なぎに叩き付けたはずなのに、そうなっていないのだから。

 狂戦士ベルセルクの顔がみるみる血の気を失う。2回目の斬撃を繰り出す前に、その右手首が切り落とされたことにやっと気付いたようだ。

 振り抜いたはずの狂戦士ベルセルクの右腕は手首から先がなくなっており、血が吹き出す。わたしの顔にかかった血は、狂戦士ベルセルクの右腕から迸ったものだ。狂戦士ベルセルクの右手首は、剣を握ったまま地面に落ちていた。

 わたしは剣をイリヤに返して、地面に落ちた狂戦士ベルセルクの剣を拾った。


「あんたたちの神々の館ヴァルハラへ行きな」


 予想外の事態に棒立ちの狂戦士ベルセルクに対して、振り上げた海賊の剣ヴァイキングソードを、その脳天に撃ち込んだ。



 戦意をなくして逃げようとする野盗は、猟師の弓矢で射殺された。わたしが3人を斬り捨てて、村人の手で更に3人の野盗が殺された。もしかしたら逃げた者もいるかも知れないが、死体泥棒の件を証言することはできないだろう。



 リサさんは教会で祈りを捧げるフリをしながら、倉庫でエルザさんの世話を続けた。2日ほどでエルザさんは普通に動けるようになり、お腹の子供も無事だった。

 頃合いを見て、旦那オドさんが別の土地に連れ出すだろう。

 エルザさんの回復を確認できたところで、わたしたちは村を出て王都への旅に戻った。


「司祭様も村長もオドさん夫婦も、みんなイリヤに感謝してたんだよ。ちゃんとお礼を受け取るのも、礼儀じゃないの?」


 提示してくれたお礼を断って、旅の保存食になる燻製肉とチーズを少しもらっただけ。


「サクヤにもさ、他人から尊敬される父親の姿をしっかり見せておくべきだよ」


「人間を一度、仮死状態にしてから元通りにできる保障なんてありません。今回はただ運が良かっただけです」


 ちらりとわたしの方を見て、そして吐き捨てるようにイリヤは言った。


「エルザさんが本当に死んでしまっても、村をお家騒動からは切り離すことだけはできる・・・そう考えてました」


「それは、エルザさんも納得してくれたことだからさ」


 茉莉花まつりかの根の粉末を混ぜたワインを、エルザさんに渡した時に伝えた話だ。その覚悟を固めてエルザさんはワインを飲んでくれた。


「どうでもいいことですから」



「ところで、誰が父親なんですか」


 あ、やっと気付いたか。


「サクヤはわたしの娘で、イリヤはわたしの婿なんだから、サクヤの父親はイリヤだよ」


「あれはオドさん夫婦宅に宿を取るための方便だったじゃないですか」


「教会の司祭様にも、そう言っちゃったからさ。教会独自の連絡網とやらで、広がるんじゃないかな」


「え?」


「これからの旅で教会のお世話になるなら、話を合わせないといけないよね。あ、そうそう。イリヤの故郷の教会に伝わるかも知れないね」


「僕みたいな生っ白いのは、女戦士の一族の長に相応しくないんでしょう」


 イリヤは、いつになく大声であげて否定する。ちょっと悲鳴っぽいところはカワイイ感じだ。まあ、関係ないけど。

 長に一番必要な素養を持ってるのは、本人は気付いてないし。


 -終わり-

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人狼に狙われた村~女戦士、放浪の薬師を拾う~ 星羽昴 @subaru_binarystar

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