HAYATO、勇人と話す

俺が俯いて座っていると、さっきのじじいが子どもを連れて戻ってきた。


連れてきたのは、本当に小学生の頃の俺だった。


そして、小学生の頃の俺は俺をみて話しかけてくる。


「おじさんが日本一のボーカリスト?」

「ああ、そうだよ」


俺は、小学生の頃の自分の顔を見て喋れなかった。

おそらく、俺を見て哀しい目をしているだろう。

それは俺が日本一のボーカリストには見えない情けない姿をしているからだ。


「本当に!?全然そんな風に見えないけど…」


やはり、がっかりしているか…。

でも、それでよかった。


「これでも、ドームツアーの最中なんだよ」

「ドームツアー!じゃあ本物だ!」


ドームツアーといった瞬間少年の目の色が変わったようだ。

俺は、俯いて顔を見て喋れていないが声のトーンからしてキラキラした目をしているのだろう。


「僕の名前は勇人!おじさんの名前は?」

「奇遇だね。おじさんの名前もHAYATOって言うんだよ」

「じゃあ、一緒だ!」


小学生の頃の俺は無邪気に喜んでいる。

そして、俺は小学生に自分に問いかけた。


「勇人、お前の夢はなんだ?」

「おじさんみたいな日本一のボーカリスト!」


日本一のボーカリストか…。

聞きたくもない言葉だった。

しかし、まだ夢を見ている少年がそう語っている。


「勇人、日本一のボーカリストという夢はな…や」


俺は、言葉を投げかけようとした瞬間小学生の頃の自分の顔を初めてみた。


それは、純粋無垢で夢を見ている顔していて目を輝かせていた。


「日本一のボーカリストが何?」


そう聞き返される。


そして、俺は答える。


「日本一のボーカリスはな、大変だぞ」

「やっぱ、大変だよね。HAYATOさんは歌ってて楽しい?」

「ああ、楽しいよ。すごく楽しい」

「僕も一緒。歌うのって楽しいよね!」

「うん」


俺は、小学生の頃の自分にたわいもない質問をしたくなってきた。


「今日のご飯は何だった?」

「カレー」

「そうか、カレーか。シーフードカレー美味いよな」

「うん!今日シーフードカレーだった!」

「そうか、いっぱいご飯食べて、いっぱい勉強して、お母さんとお父さん大事にして、夢を叶えるんだぞ」


俺は、そう言って小学生の頃の自分の頭を撫でた。

この笑顔をいつまでも見ていたかった。


「勇人は好きな人とかいないのか?」

「いるよ…」

「そうか、愛香って名前の女の子だろ」

「え、なんで分かるの?」

「秘密だ。勇人、愛香を大事にしろよ」

「うん」

「約束だぞ」


俺は、目を見て真剣に話した。

そして、さっきのじじいが横槍を入れてくる。


「HAYATOくん、もう時間だ」

「そうか」


俺は椅子から立ち上がった。

立ち上がると、小学生の頃の自分が喋りかけてくる。


「え、もうちょっとおしゃべりしようよ」

「おじさんは、もう時間だ」

「どこ行くの?」


「ライブだよ、ちょっと歌ってくるな」

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愛しい君へ 一ノ瀬シュウマイ @syuumai5533

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