第13話 黒き災い
それにしても――。
「異世界の知識ですか……」
あれっ……、待ってくださいそれって――!
ヴァルロゼッタがノーツライザを訪れた目的を丁度思い出した時だった。
バサリっと。
不意に大きな鳥の羽音のようなものが聞こえてきた。心なしか辺りも暗くなってきた気がする。
「……ん?なんだ貴様うるさいぞ」
「私ではありませんよ」
そんな会話をしている間、尚も羽音は大きくなってきている。
それが気のせいであれば良かったが、徐々にその音は自分達の方に近づいてきている事にヴァルロゼッタは気付いてしまっていた。
ああ――。もうこの時点で嫌な予感しかしない。
「……」
それは、オズバレットも感じているみたいだった。
「木々たちが風でざわめいているだけではありませんか?」
違う。
つまりこれは現実逃避なのだ。これからすぐさま起こるであろう
「そう言われると急に冷え込んできた気もしなくないな……。――へ、へ、へ……、へっくしゅん!!!」
「あ!ちょっと、こちらを向いてくしゃみしないで下さい!!」
「仕方が無いだろう、急に悪寒がしたのだから」
確かに肌寒い。
先程から絶え間なく頭上の方から、尋常じゃない風が送られて来ている。着陸態勢に入ったヘリコプターかのような力強い風圧を身体全身で感じていた。
それは確実に何かが居る事を示唆していた。というよりももう既に真上にいるのだろう。
「……貴様。少し上の方を見てみろ」
「嫌ですよ。オズさんが見れば良いではないですか」
それを観測してしまえば、現実として対処しなければならなくなる。
ギリギリまでその意味のない責任の擦り付け合いをした。
だが、それも長くはもたなかった。
「ちっ、ではせーので上を見るぞ……」
「……」
ヴァルロゼッタ達は、観念して上空へと視線を投げる。
「「せーの!!!」」
ああー、やっぱり……。
天空に、雨雲の如く圧倒的な存在感を放つ漆黒の巨躯。
堅牢な鎧の様な鱗同士は擦れ合って、不気味に低い音を響かせている。
大木のような剛腕に、胴体と同じくらいの長さを持つ逞しい尾。そのすべてを、重力に逆らい空へと押し上げている、大翼。
見上げるほど高い位置にある双角は禍々しい形をしていて、目は充血し、鋭くヴァルロゼッタ達を睨みつけていた。
まさしく、アレだ。
二人は、今まで見た中でも飛び切り巨大なそれと目が合った。
「GURUA”A"A"A"A"A"A"A"A"A"A"!!!!!」
「「ドラゴンだぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」
ですよねー――!
「そら見たことか!
オズバレットは、ヴァルロゼッタのせいだと言わんばかりに肩を掴んで揺さぶった。
「な、なぜわたくしのせいになるのですか!!?」
確かにドラゴンにエンカウントするのは今回が初めてではなかった。しかし、その原因がこちらにあるというのは、あまりにも暴論だ。
理不尽な物言いに異議を唱える。
「それは貴様らの無駄に馬鹿デカい魔力が、無駄に馬鹿デカい魔力を必要とする強力な魔物を引き寄せているからだろうが!!!」
どうしようもない言いがかりが返ってくると身構えたが、喉につかえた小骨が取れるようなすっきりとした回答に、思いがけず関心の声を上げた。
「あ、だから今まで、普段はその地域にはいないような強力な魔物に襲われていたのですね!」
「呑気に感心している場合か!貴様が原因なのだから、早くアレをどうにかしろ!!!」
オズバレットは、ドラゴンを指さす。
「GURUA”A"A"A"A"A"A"A"A"A"A"!!!!!!」
「無理です♪」
笑顔で拒否した。
「はぁーーーー!?!?!?ふざけるな!」
「むーりーでーずー!だって何だか滅茶苦茶怒ってますよ!?――そ、それにもしかしたら、たまたま羽根休めしようとして降りてきた所に私達がいただけとか……?」
「んな事があるか!ドラゴンは賢い。腹でも減らん限りは無暗に人間に近づこうとはせん」
「GURUA”A"A"A"A"A"A"A"A"A"A"!!」
「ひぇえ……!」
ドラゴンは空腹なのか、激昂している。
ヴァルロゼッタ達から視線を逸らそうとはしなかった。
自分達に用事があることは明らかだ。
「何でもいいから、チートスキルで追い払え!」
「だから無理なんですって……!!」
「貴様ァ!――この期に及んで……」
「……だって、私が本気出したら、この辺り一面吹き飛んでしまいますよ!?そうしたらオズさん絶対怒ると思いますよ!?!?」
よもや生命の危機だというのに、ヴァルロゼッタは全く見当違いの事を心配していた。
やっと上手くやっていけそうな居場所に辿り着いたのだ、ここでまた追放になるような行動はできない。
半泣きになりながら断固抵抗をする。
「状況が状況だ、怒らんわ!どの道何もしなければ、仲良くアイツの腹の中だぞ!――今回はやり過ぎても構わん。後のことなど考えず、本気でやれィ!!!」
「分かりました……。言質取りましたからね……!」
ヴァルロゼッタは、ドラゴンを見据える。
本気を出して良いというのならば話は別なのだ。
「――っ!特に恨みなどはありませんが、これも弱肉強食の世界。少し痛い目にあって貰いますよ!!」
「おうおう、
「……」
任侠映画ですか――。
何を思ったのか、オズバレットは攻勢に転じた途端、咆哮するドラゴンに対抗して負けじと啖呵を切り始める。マウントを取らないと気が済まないのだ。
だったら、自分でどうにかしてくれてもいいのでは――と、ヴァルロゼッタはじっとりと非難の眼差しを向けてみる。
「――?どうした、早よせんか。貴様らが三度の飯より好きな、異世界転生無双展開ではないのか??」
「……はぁ。今、やりますよ」
確かに一度は憧れる異世界転生無双だが、いざ命令されると、こうもやる気が湧かないものに変わるのか。ため息交じりに構えをとった。
どの道、異世界転生者であるヴァルロゼッタがどうにかするしかない状況なのは明白なので、了承も得たという後押しもあり、久しぶりに全力を出す覚悟を決める。
「GURUA”A"A"A"A"A"A"A"A"A"A"!!!!!!」
対するドラゴンは挑発に呼応したのかは分からないが、一段と興奮している様子。
うわぁ……、余計に起こってる……。
大きな地響きと共に木々をなぎ倒し着陸をする。地に足付けての真っ向勝負といったところか。
こちらに被害が出る前に、決着をつけてしまおう――。頬に一筋の汗が垂れる。
「平穏な私のギルドライフを脅かすのであれば容赦は致しません……、お覚悟を」
魔術式展開。
正面に両の手を広げても足りないほどの大きさの円環の魔術式が現れる。
身体の芯から熱が帯びてきた。心なしか全力を出せることに全身が喜んでいるように思えた。
一瞬、辺り一帯を焼け野原にする光景が目に浮かぶが、今は気にしない。
血液が躍動している。
ヴァルロゼッタの有している固有チートスキルの一つ。使用魔術の威力を格段に底上げするチートスキル。
代償として、初級魔術以外で使うと威力が跳ね上がり過ぎてまともに制御できない、諸刃の剣だ。(初級魔術ですら若干制御が出来ていないが……)
それを上級魔術で発動する。
その一撃は、比類するものが無い必殺の一撃となる。
「アルスマグナ――」
発動する魔術名を称呼する。こうする事によって魔術式によって繋がれた“星の記憶”から超自然的干渉を行う為の力が呼び出される。
魔力を核に、周囲の空気中に含まれるマナが反応して魔力結合が始まった。見る見るうちに、太陽のように輝く巨大な火球が生成された。
その火球はとめどなく、マナを吸収し拡大を続ける。集まりゆくマナは綺麗な流線形を描いた。
収束。
そして、
臨界。
「ブラスティア!!!!!!!!」
射出。弾速は、音速に近い。
「プロテクション!」
すかさず防御魔術を展開し、衝撃に備えた。そうでもしないと自分にまで被害が及ぶからだ。
「GURUA”A"A"A"A"A"A"A"A"A"A"!?!?!?!?」
すぐさま着弾。
目の前で打ち上げ花火が爆発したような轟音と地響き。視界が確保できないほどの爆風で辺りの地面がめくれ上がっていく。
「くっ――、うううう……」
我ながら規格外の威力の魔術だと思う。直下にいればそれだけで、瞬間的に蒸発してしまいそうなくらいの熱量と爆発だ。
そんな光景に驚きもせずに、後方でオズバレットがイキりちらしていた。
「ふん、勝負あったな図体だけの怪物め!このオズバレットに喧嘩を売った事をあの世でとくと悔やむが良いわ!はーっはっはっはっは!!」
「……私がやったのですが」
勝利を確信し上機嫌だ。
「――はっはっはっ……!?ってのわあああああ!!?」
津波のように宙に押し上げられていった土砂は、やがてその勢いを失い重力に従って、雨のように降り注いだ。
「あ……」
まるで。辺り一面は、地表と地中をひっくり返したかのような土景色。
「ぶっはあ!異世界転生者、貴様ーーーー!!!!!――ものには限度ってものがあるだろうが!!!少しは手加減しろ馬鹿者!!!!」
爆発の余波に巻き込まれたオズバレットは、服や靴に入り込んだ砂を払いながら、先程の口約を破って怒鳴り込んできた。
「ええーーーー!!??」
様式美の如く。
ヴァルロゼッタは、悲鳴を上げた。
異世界転生者は無双が出来ない!!!!!!!!!!!!!? ぷ。 @onion700
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