第12話 ステータス

 ひと悶着はあったものの、ヴァルロゼッタ達は目的地に向かって移動を再開する。


「……」


 警戒をしながら。


 ヴァルロゼッタは、オズバレットの数歩後を着いて行く。


 この男は、異世界転生者の事を知る上に、チートスキルを無効化?する要注意人物。


 おまけに努力好きの変人だ。


 先程の様に、急に変な事を言い出すかもしれない。用心するに越したことはないのだ。

  

 程無くして、樹海に入ることができる獣道に着いた。


「よし、ここから樹海に入るぞ。その前にこれを身体に擦り付けておけ」


 オズバレットは、背負っていた荷物袋から手のひら大の植物の葉を取り出して、ヴァルロゼッタに渡した。


「何なのですか、これは?」


 見るからに只の葉っぱ。空気に乗ってツーンとした香りが微かに鼻を突く。


 ハーブの様な物だろうか。


「虫除けだ。知らんのか田舎者が」


 どちらがですか……。辺境の地に住む人間に田舎者呼ばわりされるとは思わなかった。


「それでしたら私は、“虫除けの加護”を持っているので必要ありません!」


 少しむくれて突っぱねた。


 それだけでない。オズバレットには不信感を抱いている。


 おいそれと、簡単に物を受け取るのはどうかと思った。


「――???お前に付与されていた加護だったら、さっきので剥がしたのだが?」


「え”!?」


 後ろから膝カックンをされた時の様な声が出る。


「――ちょ、ちょっと待ってください!初耳なのですが!!」


 というよりも加護って剥がせるのですか……。オズバレットに出会ってから、自分の中の常識というものがことごとく破壊されていく。


「当たり前だ。今言ったからな」


「……。どうして、そのような大事なことを……」


「俺にとってはどうでも良いことだ」


 悪びれも無く答えた。


「そんな無責任な……、“情報開示ステータス”!」


 ヴァルロゼッタはそう言って、正面に手をかざす。 念の為、事実確認はしておかなければならない。


 すると、何もない空間に半透明の光るウィンドウが現れる。




 能力値 筋力A+(Ⅾ)

     魔力EX(B)

     知力A(B+)

     敏捷S(C―)

     幸運C+

 魔術適正 火、水、風、土、雷、氷、鉄、光

 加護 “なし”

 保有チートスキル 領域開放グロリアス・オーダー

          多重式展開魔術クライムアンドパニッシュメント

          無限収納アイテムボックス

          ポイズンガード〔毒耐性S〕

          メンタルガード〔精神耐性A〕

          梟の魔眼A+

          魔導鑑定の魔眼B

          クイックリカバリーB

          パワーボーナス

          マジックボーナス

          インテリジェンスボーナス

          スピードボーナス

                ・

                ・

                ・




「うわぁ……、本当に加護が何も無くなっているではないですか……」


 見事に加護の欄が空になっていた。虫除けや魅力チャーム等のいくつかあった加護がごっそりと無くなっていた。


 すると、後ろからオズバレットがそれを覗き込んでくる。


「どれどれ――、貴様の持っているチートスキルはと……」


「――って何、自然に覗き込んでいるのですか!セクハラですよ!!セクハラ!!!」


 ヴァルロゼッタは咄嗟に、現在の本名やスリーサイズなどの重要な個人情報の部分を手で隠す。


「何が“せくはら”かァ!こちとら未だに時代遅れの封建社会じャ、“せくしゃるはらすめんと”の“せ”の字も存在しないわ!!」


「……あの、……見ましたか?」


「――?何のことだ?」


 この反応は、ヴァルロゼッタが皇女だということは、バレていないようだった。


 もし、バレでもすれば、流石に面倒事を嫌うオズバレットなら今度こそ追放しようとしてくるはずだ。

 

 それはそうと、何かがおかしい。僅かな違和感が背筋をなぞった。


「……オズさん。なぜ日本語が読めるのですか?」


 そう、このステータスは、日本語表記なのだ。おまけにヴァルロゼッタが口走ってしまった“セクハラ”という単語にも反応をしていた。


 たまに、うっかりこの世界に存在しない概念の言葉を使うと、皆頭に?を浮かべた感じになる。


 が、


 オズバレットは……。


 つまりそれは、日本異世界の文化や言葉を理解できているという事である。


 「ふふん、俺にかかればくらい朝飯前に決まっているだろう!それと自慢では無いが、日本語以外にも嗜む程度に英語・どいつ語・らてん語もいけるがな!!がははははは!!!」


 ドヤ顔でそう答える。


「ええ……」


 チート乙。と、口からこぼれそうになる。


 未だ謎多きこの青年の、謎は更に深まっていく。


 ただ頭の中に?を抱えるよりも、最早、在るがままを受け入れた方が精神衛生的には良いのは、間違いなさそうだった。

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