Ⅱ 最初のクェスチョン

「ここは、はすみさんが電車に乗ったという遠州鉄道の新浜松駅です」


 司会者の合図で再び画面が切り替わると、大きく近代的な駅の階段を登りながら竹内がリポートを再開する。


「それでは、わたしもはすみさんにならって、これから遠州鉄道に乗ってみたいと思いまーす」


 改札を抜けながらそう断りを入れ、ホームへ下りた竹内は停車中の電車へと乗り込む。


「見たことも聞いたこともない駅へと到着したはすみさん。それでもその駅のホームに降りてしまいます。そんな彼女に2ちゃんねらー達は、車両に戻れ、いや戻らない方がいいと意見が二分します」


「この〝きさらぎ駅〟という都市伝説のそもそもの出所は、こうした体験者の書き込みとそれを見守るネット民達との間でリアルタイムに綴られた、掲示板の書き込み記録ログなのである」


 真っ暗な車窓を眺める竹内の映像に、彼女とナレーターの解説が流れる。


「到着しました〜! ここはネット民達の考察で〝きさらぎ駅〟なのではないか? と言われている遠州鉄道さぎの宮駅でーす!」


 また画面が切り替わり、電車が止まって昇降口のドアが開くと、オープニングと同じうら淋しい夜の駅へ竹内が降りる。


「きさらぎ駅に降りたはすみさん。彼女以外に下車した者もなく、戻るかそのまま留まるか悩んでいる内に電車は扉を閉めて行ってしまいます」


 竹内の言葉に合わせ、実際に遠州鉄道の列車も駅から出て行ってしまう。


「そこで、駅から出てタクシーを探すはすみさんですが、タクシーどころか公衆電話すら見つかりません」


 続いて画面には、駅構内から外の闇に歩き出す竹内が映し出され、彼女は周囲を見回しながらリポートを続ける。


「仕方なく、家に電話して両親に迎えに来てもらおうとするはすみさんでしたが、両親からもその駅の場所がわからないと言われてしまいます」


「この頃になると、2ちゃんねらー達の中にも〝きらさぎ駅〟の場所を探す者が現れ始める。しかし、そんな名前の駅はどこにも見当たらない」


「駅の近くには草原や山があるだけ。はすみさんは線路を辿って来た方向へと歩きながら、両親からの連絡を待つことにしました」


 ナレーションとの解説を交互に繰り返しつつ、暗い山間の線路を竹内は歩いて行く……。


「線路を歩いてゆく途中、父親から電話が入りますが、やはり場所がわからないということで、はすみさんは110番することにしました。でも、これも悪戯と思われてしまいます」


 線路上を歩きながら、竹内はガラケーを耳に当ててかける振りをする。


「そんな中、コメントで周りはどんな感じ? と訊かれた彼女だったのですが……ここで最初のクエスチョンです。この質問にはすみさんは〝鈴の音〟ともう一つ、ある音が聞こえると答えています。その、もう一つのある音とはいったいなんだったのでしょうか?」


 そして、唐突に竹内が最初の問題を出題すると、またあのチャラララ、チャラララ、チャラララ、チャラララララ〜…という馴染みのBGMが流れ出した。



「正解は太鼓でした。まこも君だけ没収刑です」


 そして、司会者が改めて正解と不正解者の名を告げると、チャラッチャラッチャ〜…というまた違ったBGMとともに、蒼白い手が台の下から出て来て野々宮の〝ふひとくん人形〟だけを掴んで引きづり込む。


「さあ、線路上を歩き出したはすみさんはこの後どうなるのでしょうか? 次の不思議にいってみましょう。異界ふしぎ発見!」


 残念そうに眉毛をハの字にして見送る野々宮であるが、司会者はまるで気にすることもなく、今度もカメラ目線でお決まりの合図を送った。

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